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期待

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私が生命保険の会社で勤務していた頃。
来る日も来る日も、保険契約の締め切りに追われていた。
毎月2件の生命保険を加入者を獲得しなければならないが
なかなか加入してくれる人が見つからない。
今月やっと見つかったと思ったらまた次の月が始まる。

私は、売れない、保険外交員だった。

そんなある日、一本の電話が舞い込んだ。
大学の一個上の先輩からだ。
実はその昔、ちょっと憧れていた。
というのも、大学のアルバイトで倉庫整理をしていた時に
荷物におしつぶされそうになったことがあったが、
その先輩がさっそうと現れて助けてくれてドキンとしたことがあった。

その、先輩から初めて電話があった。
在学時代、言葉を交わしたことが殆どなかったのに?
「今度、食事をしませんか?」
私はすっかり舞い上がってしまった。
この、過酷な締め切り地獄に一筋の光を照らしてくれる素晴らしい人に思えた。
そして、あわよくば保険に入ってくれるといいな〜とも思い、
二つ返事で会うことにした。

それからほどなくして、私たちは会った。
先輩の指定でとある駅の近くの喫茶店に入って話をすることになった。

先輩は、今グラフィックデザイナーをやっているらしい。
素敵な仕事じゃないか、、、!

ところがである。話が途中でだんだんおかしくなって行った。
「幸運が次から次にわき出す方法があるんだ」
私は好奇心で聞いていたが、だんだんいぶかしげになって来た。
「今から一緒に行こう」
え?と思ったが先輩のあとをついて行ってしまった。

あたりはもう真っ暗。
商店街の裏路地をくねくねと入っていくとその建物はあった。
屋根は普通の家屋風でぼんぼりが出ている。

中に入り、入り口に入ると、ここで数珠を買うように言われた。
値段は1000円だった。

なんで、そんなものを購入しないとならないんだ?と思ったが、
どういうわけか気がついたら私はその数珠を購入していた。

中に入ってみると、中は道場のような場所で
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、とたくさんの人達が念仏をしきりと唱えている。

私はさすがにひるんだ。
幸運がわき出すわけがない。
どうしたらこの場を切り抜けられるんだろう、、、。
へなへなと畳の上に座り込んだ。

戸惑った私に先輩は気づいたのか否かはわからない。
そして、私はその道場で、見てしまった。
その先輩だけじゃない、大学の先輩が3人もその道場に入門していることを、、、。

翌日、私はとんでもないところに行ってしまった、と思い
生命保険会社の同僚に相談してみたら、その宗教団体は、
今、日本で3本指に入る危ない宗教で、始めはよいけど
重要なポジションにつくと暴力をふられたりするし、
弁護士が主催する被害者の会も存在するらしい。

とりあえず購入した数珠を返品したいと思い、
ホームページで探したら住所が書いてあったので
郵便局へ行って内容証明で送り返した。

数日後、その先輩から電話がかかって来た。

「君の意志で、来たんだろう!?さあ、また行こう!」
「数珠は内容証明で送り返しました。もう電話しないで下さい!」

そう言って電話を切ったが、内容証明の威力はなく、しつこく何度もかかってくる。

無視したが、その翌日に電話帳を見たのか、先輩が実家までやって来て
その宗教団体の新聞を渡したらしい。
仕事そっちのけである。

素敵な出会いがあると思っていたのに、、、。
慎重さに欠け、あさはかだった。
仕事のせいにしたくはないが、いくら締め切りがあって
行き詰まっているからと言って、そうそううまい話があるわけがないのだ
からついて行ってはいけないのだ。
後日、大学時代の同期にこんなことがあったと報告したら、
「自分の所にも電話があった。
そもそも、電話があった時点でおかしいと思わなければならない。」
と言われた。

その後も先輩は何度もこりずに電話をかけたり自宅に来たが、
何年かたって、もう他の仕事に転職した頃、ようやく連絡は途絶えた。
作品名:期待 作家名:味岡 薫