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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 そんな出来事から二ヶ月の日が経った。
 大輝の両親の光樹と沙那の葬儀は昨年の暮れのことだった。まだ喪は明けていない。だが霧沢はそれでも良いと思った。
 草葉の陰から、光樹も沙那も、そして愛莉の父母の宙蔵も洋子も、きっと喜んでくれているだろうと自信があった。

 霧沢は五十九歳ともなり、翌年の三月末になれば定年退職となる。善は急げだ。現役の力がある内に、三十一歳の大人の女性となった愛莉を早く嫁がせてやりたいと思った。
 その年もまた植物園に真っ赤なチューリップが咲き乱れる季節となった。そんな頃に、強引ではあったが、大輝と愛莉の二人の門出となる結婚式を厳かに執り行った。

 思い起こせば、二十八年前の春うららかな陽光の下、霧沢は植物園へルリと愛莉と三人で行った。そしてルリが覚悟を決めて言った。「私ね、愛莉ちゃんを連れてね、アクちゃんの所に、お嫁に行きたいの」と。
 ルリはこんな堅い思いの言葉を吐き、その後しばらく押し黙っていた。そして霧沢は決断し、「そうしよう」と答えた。

 ベンチですやすやと眠っていた愛莉は目を醒まし、そんな様子をじっと見ていた。
 その愛莉が今、純白のウエディングドレスを身に纏っている。
 そして、霧沢に幸せそうに微笑んできてくれる。霧沢には止めどもなく涙が溢れ出てくる。
 今までどんなことがあっても、男の涙を見せたことがなかった。だが、これだけは止めることができなかった。
 信じられないほどの涙がポロポロと頬を伝い落ちて行く。

 新郎の大輝に、「愛莉を、絶対に幸せにしてやってくれ」ともう一度声に出して伝えてはみた。だが、それはもう言葉にはならなかった。

 こうして霧沢とルリの熱い気持ちの中で、大輝と愛莉の華燭の典を厳粛に挙げ終えることができたのだった。