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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 さすが老舗料亭の旦那のアトリエ・マンション、広さは八十平米はあろうかと思われる立派なものだった。
 玄関からの廊下に沿ってバスルームとトイレがある。そしてその突き当たりのドアを開くと、窓からの眺望が開けている広いリビングがあった。
 窓とは反対側にキッチンと寝室がある。そのベッドルームはリビングを広く取るように設計されているのか、あまり広いものではなく、六畳くらいのものだった。

 しかし宙蔵の使い方は乱雑そのもの。どこもかしこも描き上がった絵や、創作途中の絵が置かれ、絵の具やペインティング・オイルが転がっている。
 そのせいかリビングに入ると独特のオイルの臭いが鼻を突く。だが、霧沢はその臭いが懐かしかった。
「まあ、散らかしてるけど、辛抱してくれ。で、ちょっと蒸すから冷房を入れるよ」
 宙蔵はこう言いながら、エアコンのスイッチを入れた。それと同時にリビングの換気扇も回す。
 霧沢が「エアコン点けて、換気扇か?」と不思議そうにしていると、「商売柄、身体に臭いがつかないようにしないといけないんだよなあ。最近、油から水彩に変えようかとも思ったりしてるんだよ」と宙蔵が目で同意を求めてくる。

「なるほど」と霧沢は頷き、リビングを見回してみると、数本の消化器が置かれてある。首を傾げる霧沢に宙蔵は気付いたのか、「ああ、それらか、二酸化炭素の消化器だよ。ABC粉末消化器だと、もし使ったら、絵が全部汚れっちまうだろ」と答えた。これも霧沢はその通りだと納得した。
 そんなやりとりをしながら男二人だけの酒宴が始まった。それは学生時代に戻り、懐かしくかつ楽しいものだった。

 だが霧沢はなぜかルリの話題は避けた。宙蔵も何かに気付いているのか、ルリの話題へと特に踏み込んではこなかった。そして二時間ほどいろいろと話し込んだだろうか、霧沢は翌日からの仕事もあり、最後に再会した互いの縁を祝し、ワインで乾杯した。
 こうして、雨はまだ止むことはなくそぼ降ってはいたが、花木宙蔵のアトリエ・マンションを後にしたのだった。