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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (41)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (41)にわかに看板娘 

 
 赤いたすきをかけ、姉さんかぶりでいそいそと立ち振舞う清子に、
客席のあちこちから、立て続けに声がかかります。
遠くから評判を聞きつけ朝ラーメンを食べに来たはずの人たちが、
初々しい看板娘の登場に当初の目的をすっかりと忘れ、
にわかにザワザワと色めきたっています。


 「お嬢さん。一緒に記念写真を撮ってください。お願いします」


 「可愛いねぇ、君。もしかしたら、ミス喜多方かい。
 手が空いたらぜひこっちも1枚、記念撮影をお願いします」


 朝ラーメンの繁盛店のはずが、いつのまにかミスラーメンの撮影会に
様変わりをしたような様相さえ呈してきました。
ラーメンを座席に運びながら、清子は相次いで頼まれる写真撮影の注文にも、
嫌な顔ひとつ見せず、次々と笑顔で応えていきます。


『おい。どうなってんだ・・・
いったい何が始まったんだよ、今日は』

 ふらりと顔を見せた常連客のひとりが店内の様子を一瞥をして、
異変ぶりに驚きの声をあげています。
常連客の入店に気がついた清子が、ひょこっと頭を一つさげたあと、
よく通る声で『いらっしゃいませ!』と元気よく声をかけます。
常連客が、ごったがえす客たちをかき分けながら
厨房へ飛んでいきます。


 「どこから見つけてきたんだ。あんな上等な隠し球を。
 可愛い、可愛いで店の中じゅう、大騒ぎになっちまっているぜ。
 驚いたなぁ」

 「そいつがよ。俺にもよくわからねぇ。
 恭子が連れてきた清子っていう女の子なんだが、
 自分から手伝いを買って出てくれたんだ。
 愛想よく客席にラーメンを配っているうちに、客たちが騒ぎ始めて、
 いつのまにか、店の中の人気者になっちまったようだ」


 「たしかに、可愛い雰囲気がある。
 浴衣が妙に似合っているし、物腰がすんなりしていて、
見ていて気持ちがいい。
 きびきびと動き回る姿にどことなく華もある。
 見た目といい、雰囲気といい、10代目の恭子とは
月とすっぽんの勝負だな。
 しかし、どこの子だ。このへんではあまり見かけない顔だ」


 「悪かったわねぇ。どうせ私は、月とすっぽん程度の10代目です。
 愛嬌なんかないし、動作もキビキビとはしていません」


 「おう。誰かと思えば10代目の恭子じゃねぇか。
 なんだ、居たのかよ。居るなら居るで、
 ちゃんと俺にアピールをしてくれよ。
 つい、心にも無い余計なひとことを言っちまったじゃねぇかよ。
 おいら」

 「清子は、湯西川温泉で芸妓修行を始めたばかりの、15歳です。
 2人で朝ラーメンを食べに来たはずなのに、おばちゃんが
 余計なことを言うんだもの。
 清子どころか、あたしまで手伝うハメになっちゃいました。
 ちなみに、東山温泉の売れっ子芸妓、小春姉さんの
 妹芸妓に当たるそうです。
 会津の老舗芸妓、市さんと一緒に、ウチの酒蔵の見学にきたところです」


 「東山の小春に、会津の市さんといえば、
 ともにトップクラスの2人じゃねぇか。
 驚いたねぇ。どうりでサラブレッドの雰囲気が漂っているはずだ」


 「どうせ私は、喜多方生まれで、
 救いようのない駄馬のような女です。ふん!」

 「本気で怒るなよ、10代目。
 お前さんにもカワイイところは有るが、あの子は、別格だという意味だ。
 お前さんのところの酒蔵は、いい酒を作るためのいい水に恵まれている。
 あの子のところには、いい女を作るためのすべての環境が
 整っているというだけの差だ。
 しかし、いい素材だね・・・・
 働いている姿に華が有るんだから、やっぱり、天性のお座敷向きだな」


 ん、なんだお前は・・・と常連客が突然足元を見つめます。
『なんだ。人懐っこい小猫だな』と、足元にじゃれついてくる猫を、
邪険に足で払いのけようと身構えます。
それを見た恭子が、慌てて横からたまを抱き上げます。


 「バチ当たりなことをしないでょ。
 この子、こう見えてもれっきとした、三毛猫のオスなのよ。
 清子が看板娘なら、こっちの三毛は、商売繁盛の護り神なんだから!」


 三毛猫のオスと聞いて、常連客も目を丸くしています。
『なんだよ。いきなりダブルで福の神の到来かよ。どうなってんだ、
今日はいったい・・・』常連客の当惑と驚きを尻目に、
当の清子はまるで水を得た魚のように、ニコニコと笑顔をふりまきながら、
観光客でごったがえす店内と厨房を、忙しく往復をしています。



 (42)へ、つづく