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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 3 蒼雷

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序章 海上にて



 エドがどこまでも続く青い空と海を見ながら、甲板の縁に寄りかかるようにして潮の香りを楽しみながらぼんやりとしていると、アレクシスが近寄ってきた。
「どうしたんだい、こんなところで。」
「ああ、アレク。いや、暇だなあって思ってさ。わたしは船ってもっとやることがいっぱいあるんだと思ってたんだけど、意外とそうでもないんだね。」
 エドの言うやることというのは、暇つぶしという意味ではない。確かに暇つぶしもないのだが、エドの言っているのは、所謂船の仕事のことだ。今二人が乗っているセロトニア商船団の旗艦とも言えるクイーン・シモーヌ号は複雑な機構を組み合わせた仕組みで、帆を張ったり、船を漕いだりという事をしなくていいようになっていた。仕組みは詳しくは教えてもらえなかったが、ルチアに聞いた所によると、そもそもこの船は帆船ですらなく、船上にそそり立っているマストはよほどの緊急時以外は使うこともないらしい。
「それに、レオとソフィアは里帰りだからわかるとしても、私達まで一緒に来ちゃって良かったのかな。一応今って戦争中じゃない。しかも狙われているリュリュはアミサガンに残っているんだよ。」
「そんなに心配しなくてもアミサガンにはジゼルもいるし、クロエもカズンも残ってくれているからね。それにユリウス王子や、リシエール騎士団だっているじゃないか。僕らはルチアおばさんに自分たちの武器を作ってもらうことに集中しよう。」
 アレクシスはそう言って笑いながら、エドの隣に立つと、海風を受けて気持ちよさそうに目を細めた。
 しかし、晴れやかな顔をしているアレクシスとは対照的に、エドの表情は晴れない。
 そんなエドの様子を感じ取ったアレクシスは目を開いてエドに微笑みかけた。
「何か心配ごとかい?」
「ヘクトールやアリス達が街に居てくれたらもっと安心だったのになって・・・。」
「君の従者に疑いをかけるようなことになってしまって申し訳ないとは思っているけど、僕達がいなくなるこのタイミングだからどうしてもね・・・。エドにはわかってほしいな。」
 そう言ってアレクシスは困ったような笑顔を浮かべてエドの顔を覗きこむが、エドはぷいっと顔をそむけてた。
「そんなのわかる訳ないでしょ。ヘクトールは私にとって、もう従者とかそういうんじゃないんだよ。父親とは言わないけど、私にとっては兄のような人なんだ。なのに疑って追い出すみたいなことをしてさ。それに前にアレクはアリスの事を姉のように思ってるっていったじゃない。大体アンはアレクにとっては血の繋がった叔父さんでしょう。それを疑うなんて、アレクはそんなに冷たい人だったの?」
 エドに言われた言葉を受けて、アレクシスはますます困ったような顔をして、さらには少し泣きそうな顔になりながら口を開いた。
「・・・エド。一つ言っておくよ。人は、血のつながりがあるからって、信用できるなんてことはないんだ。それは僕がバルタザールを信頼出来ないってことでわかるだろう?僕が信用できるのは心のつながりだ。僕だって周りの人間みんなを信用したいさ。だけど、裏切り者をあぶりだすには、仕方のないことなんだよ。後ろを安心して任せられないと僕は前に集中できない。集中できないと、隙ができる。そうなれば、その隙を突かれて君やリュリュを守り切ることも危うくなるかもしれない。僕はそんなことになるのが嫌なんだ。だから今、このタイミングでやらなきゃいけないんだよ。今、このタイミングで確かめなきゃいけないんだ。」
 そう言って黙ったアレクシスの顔は悲しみに満ちた表情で、泣き出さないように必死に口を結んでいるように見えた。
「アレク・・・?」
「僕だって信じられるのなら信じたかった。でもね、エド。この世界の人間が皆が皆、世界の維持を望んでいるわけではないんだよ。中にはバルタザールのように何を犠牲にしても、世界を崩壊させてでも自分の願いを叶えようとする者や、それに追従することで、あわよくば富や地位を得ようとするものも居る。そういうことさ。」
 アレクシスはそこで一度言葉を切り深呼吸をすると、泣き笑いのような表情でエドに向き直って口を開いた。
「ヘクトールやメイには巻き添えで疑いをかけるようなことをして、悪いことをしたと思っている。・・・僕が疑っているのは僕の身内のほうだよ。」