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雪国の梅花

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──次に会うのはいつだろうね。

 笑いながらそう言った。彼の笑顔と再会するのは、そう遠い日ではなかった。
 彼の優しい微笑みは、白と黒に縁取られた遺影となって私の前に現れた。
 棺に納められたウタは、そこに生命が存在しないなんてことは全くの虚言であるかのようで、すぐにでも起き上がって「ちぃ」と声を掛けてくれそうだった。しかし、彼の口は閉ざされたまま、もう二度と開くことはない。
「千里さんですよね?」
 肩に触れた女性に、見覚えがあった。四角いレッスンバッグを持っていたあの少女がそのまま、大人になってそこにいた。
「あ、ウタの……」
「はい」
 小さな桜の花がプリントされた白いハンカチで鼻の辺りを押さえた彼女は、一度目頭にそれを移動させ、手にしていた物を私に差し出した。
「夫に頼まれたんです。棺に花を入れるとき、千里さんには梅の花を入れてもらってくれって」
 手渡されたのは、祖母の通夜の前に買ってくれた物と同じ、濃い桃色をした梅の枝花だった。
「覚えてます、千里さんと光太……夫が梅の木の下でお花見してたの、覚えて──」
 再びハンカチを目頭に押し付けると、無理矢理作った笑顔には似合わない震え声で言った。
「どうか笑顔で送ってあげて下さい。千里さんのこと、凄く大切に思っていましたから」
 彼女はポケットから一枚の写真を取り出した。そこには、幼い日のウタの横顔と、ウタを見上げる私の横顔が並んでいた。二人の瞳は、ビー玉みたいに透き通って見えた。
「この写真は、夫がずっと手帳に挟んでいたんです。これも彼に頼まれましたので、棺に入れさせてもらいますね」
 一礼した彼女は私の目を見ないまま、震える背中で参列者の中に紛れて行った。

 母の体を支えながら片手で梅の枝を持ち、棺の横に立つ。献花を終えた父が母の腕を取るのを確認し、そっと手を離した。
 痩せた頬に触れるぐらいの近くに、梅の枝を横たえる。敷き詰められた大きな花びらの絨毯に、しなやかに小さく一度だけ跳ねた。
 目を閉ざしたままのウタに近付き、梅の枝の陰に隠れた彼の耳に向かって、音もなく囁いた。
「梅の木の下で、待っててね」
 意図せず流れ落ちた涙が、梅の枝を濃く濡らす。ポケットに入れてあったハンカチで涙を拭った。
「またね」
 今度はしっかりと声に出して、しばらくの別れを告げ、いつかの再会を誓った。

 来世でもきっと、あなたの可愛い「ちぃ」として命を受け取って、あなたの隣でずっと笑っていられますように──。

END.

作品名:雪国の梅花 作家名:はち