小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (33)

INDEX|1ページ/1ページ|

 
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (33)お座敷遊びの真髄


 襖を1枚はずして、それをお座敷に立てて芸者とお客さまの3人で、襖の裏に
隠れながら、呼ばれたら顔を出すというゲームもあります。
お父さん役、お母さん役、頭にリボンをつけたお嬢ちゃん役などの配役を
その場で即興で決めておきます。


 三味線のお姐さんも、最初のうちはゆっくりとしたテンポで、
『淀の水車は・・・』などと、歌詞を優雅に唄いはじめます。
手の空いている芸妓が、小股に挟んだビール瓶の「ハカマ」で、危なっかしく、カチーン、カチーンと、拍子などを取りはじめます。


 『カカ出なやの、また、トト出たり、遅れて娘も顔を出たり・・・』
などと歌いはじめると、それに合わせて、襖から3人が
それぞれに顔を出します。
最初のうちは普通のテンポですから、どうということはありませんが、
だんだんテンポが速くなってくると、混乱をして、間違えたりする人が
出てきます。
この場合も、いちばん先にドジった人が負けで、そこでまた罰盃として、
たっぷりとお酒を飲まされてしまいます。


 こんな,煽り方もあります。
『♪ 街のあかりがとても綺麗な◯◯、◯◯(料亭の名前)。
お酒はいっきでのみましょう。それ、いっき、いっき・いき・・・・
はい。いっき。おみごと、男だね、(もしくは女の子、女だね)
ちゃちゃふーちゃちゃふー』
というかけ声をかけながら、お酒の一気飲みをすすめます。


 どこかの大学のコンパと、まったく同じ光景です。
とにかく、飲むところでは相当量を飲ませますし、情け容赦なく
徹底的に飲ませます。
時には、お料理のふたで飲ませることさえあります。


 三味線にあわせて、みんなで民謡を歌う場合もあります。
『ちゃっきり節』の、ちゃ抜きや、『ノーエ節』の、のーだけとか、
えー、を言わないバージョンの歌とか、あらゆる変化が用意されています。
たまには本当に、昔風な粋なお人も居ます。


 芸妓の弾く三味線に乗せて小唄だの、長唄だのを、
一節聴かせる通なお客様などもいらっしゃいます。
即興で、都々逸を作って歌うという、飛び抜けたお客様さえ存在します。
このあたりのレベルになると、もう、お座敷における達人と呼ばれています。
ただし、お座敷ゲームの定番のように言われている、『野球けん』などと
いう、下卑た低俗なお遊びは由緒正しいお座敷では、決して行われません。


 特別な道具を使わないというのも、お座敷遊びならではの醍醐味です。
お座敷のなかにあるものを、巧く活用して遊ぶ簡単なゲームと
いうものがほとんどです。
座布団を使う「座布団とり」などは、その典型な例のひとつです。
人数より一枚少ない座布団を並べておきます。



 三味線のお姐さんが 
『♪ 金毘羅ふねふね 追手に帆かけて シュラシュシュシュ・・・』
と弾き、曲がストップをした瞬間に、どこでもいいから座布団に坐ります。
坐らなかったひとりが、そこで落ちます。
最後は1対1の対決となり、勝ったほうが晴れて優勝となります。


 座布団を1つあいだに置いて、芸者とお客さまがそれぞれに
後ろ向きになり、かかとを座布団につけたまま対峙をする
というのもあります。
『♪ 勝ってくるぞと勇ましく・・・』と勇壮に唄いながら、お尻とお尻を
ぶつけ合います。『どんじり』と呼ばれるきわめて単純なゲームです。
相手のお尻の反動で飛ばされた人が負け。
片方でもカカトが座布団についている人が勝ちとなります。



 いずれにしても、お座敷ゲームというものの基本は、
日頃のかしこまった生活からの、「発散」に他ならないようです。
「コイン落し」というゲームは、和紙を使います。
大きめのグラスの縁をお酒で濡らしてから、和紙を貼り、余った部分を
ピットと切り取ると、きれいに蓋ができます。


 その真ん中に五円玉をおいて、その周りを芸者とお客さんが、
順番に、タバコの火を使って燃やしていきます。
五円玉を、誤ってグラスの中に落とした人が負けとなります。
五円玉の穴の中を焼く人もいるし、けっこう真剣で、白熱をした
駆け引きとなります。
落とした人が、やはりイッキにお酒を飲まされます。



 「碁石とりゲーム」というゲームもあります。
白と黒の碁石を器の中に十個ずつ入れ、芸者が黒でお客さまを白としたら、
それを「ヨーイドン」で、お箸でつまんで拾いあげます。
早く全部を拾いあげたほうが、当然勝ちです。


 仮に神様が、こうしたお座敷の様子を天の上から覗いていたとしたら、
大の大人が、それもいい年をした男と女が、なんて他愛のない馬鹿げたことを
やっているんだ、と嘆くかもしれません。
しかし花柳界に働く人間は、口が固いことでつとに有名です。
よっぽどのことがなければ、情報が外へ流出をする心配などありません。
『胸襟を開いてうちとけて、全員が、裸になった気分でとことん遊べる』
それこそが、お座敷遊びの持っている本来の醍醐味です。


 お座敷を盛り上げるのもまた、芸者のたいせつな役目であり、
結果は、単にその腕にかかっているのです。


(34)へ、つづく