ある3時のお茶の時間
毎日そう思ってるのに
毎日生きてて、可笑しいでしょう、笑っちゃうでしょう。
おやつの時間ですね、コーヒーとパウンドケーキでも頂きましょうか。
コーヒーはお嫌いで? ああ、よかった。なら、淹れ甲斐がありますね、待っていてください。
わたしですか?ええ、メンヘラと言うやつですね、俗に。精神病を患っているんです、これでも。
小奇麗だしそうは見えないってよく言われますよ、でもね、やっぱり違うんですよ、普通の方とは。
どうです、メンヘラの淹れたコーヒーは。 苦いですか、ではお砂糖とミルクをどうぞ。
あなたは将来こうしていたいとか、どうなっていたいとか、あります? あ、パウンドケーキ、いいですよ、食べていて。
美味しいでしょう、買ったものですからね、当たり前です、ふふ。
他の方はどうだか分りませんがね、病気になってから、年月の経つごとに、希望・・・って言ったら大げさですけど、朝を迎えた時の気持ちが、変わって行ったんです。最初は、もういやだ、早く苦しくなくなりたい、そればかり。少し落ち着いてくると、治りたいな、今日は何が出来るかなって、そんな時期もありましたね。すこしだけ、楽しい気持ちにもなれた。わたしの青春だったかもしれないですね・・・
うん? 可笑しいですか?青春て言葉は古かったでしょうか?まあいいです。
でも大変なのはそれからです。治りそうで、治らない、悪魔のような症状が、出たり引っ込んだりするんです。いつ出るかも分からないのですよ・・困ったものですよね、ふふ。
そんなことを毎日繰り返しているうちに、だんだん、疲れてきたんです、毎日のループ的な何か、そこにひょっこり現れる悪魔とのせめぎ合いに。
気力がないっていうのはですね、わがままだと思いますよ。ええ。でも手とか、足とか脳みそとかが、動かないんです。何も、なんにも考えられなくて、空っぽな感じ。それでいて体は鉛のように重いんです。
何もできないというのは、そういう状態だからなんですよ。
コーヒー、お代わりいります? はい、わかりました。
はい?なぜ将来こうしていたいかとか訊いたのか・・・・? あ、はは、お話が遠回り過ぎましたね すみません
コーヒー、どうぞ。ちょっと薄めに淹れてみましたよ、 ミルクやお砂糖はもちろん入れていいですよ?自分の好きな味にして飲むのがツウだって、言いますからね
ええと、そうですね・・・そのような毎日を繰り返しているうちに、わたしには将来の展望とか、未来の希望とか、そういうものが、とてもじゃないですが、想像できなくなってしまったんです。 普通の方でも沢山そのような方がいらっしゃるのは知っています、うぬぼれなんかでは・・・無いと思いたいです。わたしのこの気持ちが。
ただ、・・・疲れたな、また今日もなにも出来ないのかな、そう思うんです。朝起きた時ですよ?辛いですよ、ふふ。
何もできない人が、そこに居る。その意味が、あなたにならわかるでしょう、その意味は、つまり無意味。やもすると害悪にすらなり得ます。
誰にも何もしてあげられないから、誰にも必要とされることもなく、醜く歪んだ心は誰にも愛されることは無いでしょう。きっとこれは勘違いなんかじゃ無い筈です。
そんなことないですか? やめてください、お世辞は嫌いですよ、 パウンドケーキまだありますよ?食べたいだけどうぞ? 美味しそうに食べますね、あなたは幸せ者だ。
だからと言ってはなんだけども、わたしの話を最後までちゃんときいてくれますか、この、お茶の時間だけでいいですから。 おねがいです。
誰にとっても必要じゃ無くて、誰にも愛されない、そんな存在になってしまった自分を、見て、絶望に近い気持を抱くようになりました。
簡単に絶望した、だなんていうもんじゃないことは分かっていますよ、でもやっぱり、この言葉が適切なんです。
毎日ぼんやりその気持ちを抱えているとですね、なんで、どうして、此処に、この世にいるのか 分からなくなるんですよ、自分でもすこし驚きましたね、ここまで来てしまったか?とね。
そうして、こんな自分は居ない方がいい、居ない方が皆の役に立つんじゃないか、皆が幸せになるんじゃないか、
死んだらいいのではないのか
死んだ方がいいのではないか
死ぬべきではないのか
そんな思考回路になってしまったんですよ。いつのまにか、朝起きて、昼になって、夜寝るまで、ずっと、そんな考えが頭から離れないんです。
甘えだと思うでしょう、わたしも、そう思いますよ、もっと努力すればいいではないか、そうすれば存在意義のある人間になれるって
でも もうそんな元気すら 無くなっていたんです、わたしには。
死にたい 死ねない 死にたい 死ねない 死にたい どうしても死ねない!
きっと、それは 単に、勇気がないだけではなくて、死にたくない、どこかで、まだ生きていたいんだよ、生きさせてください、って心のどこかが言っているんです。
なにもできなくても、息してるだけでも、生きていていいなんてことは、ないですよ?当然のことです、悲しい事ではないですよ
どうしたのですか? それは悲しい事? 息してるだけでも いい・・?
そんなことを言って下った方はあなたが初めてですね、ふふ ありがとうございます
そういう言葉で救われる方もいらっしゃるようですね、あなたはいつも その言葉を忘れないでくださいね
おや、お茶の時間が終わりますね では今日はこの辺にしましょうか、 美味しかったですか、よかったです。
それでは また。
ありがとう さようなら やさしい やさしい 名も知らぬ あなた
作品名:ある3時のお茶の時間 作家名:鞠嶋美尋