小説が読める！投稿できる！小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ！

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま　（27）他愛もない騒動


　『春奴母さんと豆奴姉さんが、
予定通りに帰っちまうのは一向に構わないが、
　なんでおいらのミイシャまで、一緒に連れて帰るんだろう。
　とつぜん帰られたら、今夜から、おいらが寂しくなっちまうじゃないかよ』

　『いいじゃないの。あたしが居れば大丈夫でしょう。たまは』


　『駄目だ。おめえは俺のタイプの女じゃねぇ。
　だいいち、おっぱいもロクに大きくないくせに、一人前に女を主張するな。
　胸が大きく膨らんで、あそこにも毛が生えて、お尻が大きく丸くなった
　やつのことを、一般的に大人の女と呼ぶんだぜ。
　お前さんはなにひとつとして、そいつに該当をしていないだろう。
　半人前の女のくせに、生意気な口を俺様にきくんじゃねぇ』


　『なんだと。もう一度、言ってごらん。この生意気な口は』と、清子が
たまのヒゲをつまみ、エイとばかりに思いっきり上へ
引っ張り上げてしまいます。
『アッ、イタタ。この野郎。ヒゲを引っ張りのは反則だぁ。
まいった。降参する！』
バタバタと手足を振り回したたまが、大きな声で悲鳴を上げます。


　『まったく・・・やることがいちいち乱暴すぎるぜ、清子は。
　猫の髭には、たくさんの神経が集中しているんだぜ。
　ちょっとした微妙な振動でも敏感に感じとるレーダーだというのに、
　そいつを、つまんで引っ張るとは、いったいお前は、
　どういう神経をしているんだ』

　額から脂汗を流しながら激痛に耐えているたまが、
清子を涙目で見上げます。

　『子猫のくせに生意気な口をあたしに、きくからさ。
　いつも寂しそうで、かわいそうだからと思っていままでは懐に
　入れてあげていたけど、そういう事ならば、もう、
　面倒なんか見てあげません！』

　フン、とたまの目線を外した清子が、にわかに
そっぽを向いてしまいます。


　『そう言うなよ。清子。お前だって本当は寂しいだろう？』

　『あたしは、寂しくなんかないわよ』


　『そうかぁ。お前くらいの年頃は、よくホームシックにかかると聞いたぞ。
　実家の母ちゃんが恋しくなって、メソメソと泣くそうだが、
　お前は本当に大丈夫か？
　寂しいのなら、今夜は、俺が慰めてやってもいいぞ』


　『ふぅん。なかなかに言ってくれるわねぇ。たま。
　どんなふうにして、あたしを慰めてくれるのさ。言ってごらんよ』


　『そうだなぁ。まず、耳元で一晩中、愛の言葉を囁く。
　胸のふくらみを、おいらのザラザラした舌で一晩中、舐めてやる。
　両足のあいだに潜り込んで、一晩中、お前を温めてやる。
　3つの項目のうち、1つだけを選択しろよ。なんなら、全部まとめてでも
　おいらは、一向にかまわないぜ』


　『この、ド変態子猫。
　あんたの妄想には、際限というものがありませんねぇ。
　見せしめのために尻尾を掴んで振り回し、月の遥か彼方の世界まで、
　思いっきり、投げ飛ばしてあげようか』


　『待っ、待て。それだけはよせ。
　ただ振っているだけの犬の尻尾なんかとは大違いで、
　猫のしっぽには、それなりの大きな役割がある。
　バランスをとるためには欠かせないし、尻尾を強引に引っ張ると
　内蔵に障害を起こしたり、脊髄に損傷を起こして下肢（後ろ足）に障害が
　発生することさえある。そ、それだけは、頼むからやめてくれ！』

　『うふふ。顔色が変わった。少しは反省をしたみたいだわね』


　『当たり前だ。お前ってやつは、手加減が出来ない不器用な女だ。
　本気でやられたら、月はおろか、火星か木星あたりまで
　投げ飛ばされちまう。
　ふん。今日のところははこれくらいで勘弁をしてやるから、
　このあたりで、とりあえずの停戦協定といこうぜ』


　『いいわよ。私はたまほど発情している訳ではないもの。ふふふ』


　『ところでよぉ、清子。あ、いや。
　今のところ芸名は市花（いちか）か。
　あの２人がさっきから、久しぶりに半玉を作るのは楽しみだと、
　ヒソヒソとやっているが、半玉ってやつは、
　作りあげる代物なのか？』

　『どういうことになるのかは、ウチも、ようは知らん。
　今夜は6時にお座敷に出向くので、その前までに
　作ってくれると言っています。
　お風呂に入って丁寧に磨いておけと、念を押されています』


　『何時までのことだ。それは』


　『最低でも、2時間前までに済ませておけって。
　あっ、もう4時を過ぎてるやないの。
　たまが余計なことばかりを言うから、もう、すっかりと
　出遅れている状態や。
　急いで風呂に入らんと、小春姐さんに、本気でまた、
　どやされてしまいます！』


　『そらいかん。
　おいらが背中を流してあげるから、急いで風呂へ急行しょうぜ！』

　『たまとは、もう、入らん』


　『なんでや。この間までは一緒やったやないか。別に問題はないやろ』

　『ウチにも、都合というものがある』


　『都合？。ははぁ、
　さてはお前。あそこに、ようやく毛でも生えてきたか？』

　『好かん！。また余計なことを口走る、たまは！。
　私はこれからお風呂へ行くが、お前がこれから飛んでいきたいのは
　とりあえず冥王星か、それとも、宇宙の果てにある
　海王星の方角か。どっちや！。
　どちらでもいいから、好きな方を覚悟して選べ。
　私が渾身の力で放り投げてあげるから。覚悟しいや、たまっ！』


　『うわっ、かなわん。
　・・・口は災いの元や。堪忍、堪忍やでぇ。清子～
　ムキになるところを見ると、やっぱり、お前、あそこに毛が・・・・』


　たまが次ぎの言葉を言う前に、
清子の強烈な右ストレートが顔面に伸びてきます。
『へへん。すでに読んでおるわい。お前の攻撃などは』と、
たまが軽くヒョイと身を翻した次の瞬間、狙いすました清子の平手打ちが、
反対方向から、たまの横顔を的確に捉えてきます。


　『未熟者め。お前の逃げ方は常に、ワンパーターンや。
　今日もウチの勝ちや。思い知ったか、この単細胞。うっふっふ』



　（28）へ、つづく