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一之瀬 優斗
一之瀬 優斗
novelistID. 28513
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アタシのヌケガラ。

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アタシらしいアタシって、どれだろう。


たくさんの偽りがぶら下がったクローゼットの中に、両腕を突っ込む。


あの人は、どんなアタシがいいんだろう。
この人は、どんなアタシが好きなんだろう。


「何が好きなの?」
「普段何してんの?」
「何に興味あるの?」


何。何。何。何。


(何が好きだっけ)
(普段何してたっけ)
(今興味あるのって何だっけ)

目の前のこの人に、与えてもアタシに害がない
ちょうどいい情報ってどれだっけ。





「アナタって、何を考えてるのかわからないよね」


(アナタなんかに理解されたくないからから、言わないだけですよ)


ていう言い訳が、とうとう、しっくりこなくなった。




アタシはアタシがわからない。

アタシはこういう人間です。
って、説明出来ない。



けれどただひとつはっきりしていることは

アタシの嫌なトコロを、誰にも見られたくない。

親にも恋人にも親友にも誰にも誰にも。


嫌なトコロは沢山ある。
そこだけをちょうど良く隠すのは、疲れてしまう。


だったらいっそ全部隠してしまえ。



毛羽立って色あせた毛布を頭からかぶって、目玉だけキョロキョロ。


誰も彼もアタシを知らない。

いつからこの毛布を手放せないのか、思い出せない。






見られたくない隠したい知られたくない。
でも見て欲しい。知って欲しい。受け入れて欲しい。
アタシはアタシ。ここにいる。


そんな葛藤は、せいぜい思春期止まりで。


大人になるって、諦めること。
大人になるって、開き直ること。


だってしょうがないじゃん、これで今まで生きてきたんだもん。
今更、どこをどうカスタマイズしたらいいかなんて、わからない。
正解なんか、わからない。





今までに沢山作ってきた「偽りのアタシ」の、ひとつをかぶる。
愛想笑い。適度なあいづち。もっとアナタのことを教えてください。
目の前の相手を認めたふりして、肯定したふりして
与えられた膨大な情報は、腹に溜まることなく、冷たい霧となって、体中にまとわりついた。


アタシは力の入りきらない腕で、「偽りのアタシ」をヨロヨロと脱いだ。
乱暴にまるめて、洗濯機の渦へサヨウナラ。
毛羽立って色あせた毛布をたぐり寄せ、くるまって、ぐったりと、転がる。


ゴウンゴウン。今日のアタシが消えていく。あの人はまた、はじめましてになる。

ゴウンゴウン。あの人の気持ちが消えていく。あの人は、一体、だれ。


毛羽立って色あせた毛布は、この世界の中で一番、アタシに優しかった。



ごめんなさい。ごめんなさい。喉の奥に詰まった石が熱くて痛い。

ごめんなさい。ごめんなさい。今日もヒトを好きになれなかった。

今日も辛かった。悲しかった。殺してしまいたかった。

ぐったりと、転がる。




明日のアタシは、どれにしよう。