僕で或り続ける為に
第四話
「お帰りなさいませ、御主人様」
夜、待っていなかった御主人様の帰宅。
いつもならそのままご奉仕するのだが、書斎に呼ばれた。
机の上には無数の書類。
床にも数枚落ちている。
いつもなら誰一人としてこの部屋近辺に近寄らさないくせに、何故己が?
怪訝な目を向ければ御主人様は溜息を吐いた。
「…赤城グループは当然知っているな?」
「はい」
赤城グループ、いくつもの会社を経営しており世界トップクラスの金持ち。
恐らく世界のランキングで三本指に入るであろう、そのくらい凄い。
此処もかなり名の上がる金持ちだが赤城グループには到底叶いやしない。
「その赤城グループの末っ子が御前を……
引き取りたい、との事だ」
「………え?」
滅多に動揺しない己だが流石にこれは動揺した。
いや、まず面識も何もないし此処に己が居るという事も知らない筈だろう。
なのに何故?
疑問ばかり浮かんでくる。
しかしこの場に疑問を解決してくれる者はいないので口を閉じるしかない。
「…俺としては御前を手放したくないんだよ」
いえもう手放してくれて結構ですが。
「だが、逆らう事は許されない。
明日の早朝に来るらしい。
最低限の荷物を持ってお出迎えして差し上げるんだ。
いいか?無礼の無い様に」
「…はい」
静かに部屋を出て真っ白な頭で自室に辿り着く。
嬉しいと思う半面、恐怖もある。
何にしろ、再びご奉仕しろ何て言われれば堪ったもんじゃない。
明日の早朝、随分と急な話だ。
大きな鞄を一つ持ち、服と筆記用具、そして本を全冊。
そして財布に貯まりに貯まって貯まりまくったお金を持ちそれで終了。
流石に家具は持っていけないだろう。
今日で、この部屋ともおさらば。
かと言い名残惜しくもないので明日に備え
ふかふかのベットでぐっすりと夢の中に入っていった。