短歌連作 分岐ルート「静かな生活」
腐ってる流しの梨を捨てられない優しいだけの人がいました
ばらばらに崩れてしまうベランダで光合成に多すぎる閃
ひどい目にあわされている塩漬けの鮭は三日も冷蔵されて
神様になってください簡単な手続きだけで光が出ます
そんじゃあな俺は寛解するけどさおまえも星に帰るといいよ
ここでまだアポロをふたつに割っていて あんたに空が落ちちゃう前に
てのひらが内腑のいずみからのびてひらりと弱く沈んでいった
うどん屋のうどんの熱さが罰してる俺をいますぐ救ってくれよ
扁平な腹から再度生まれゆきただ白銀に光りたかった
ねえルート選択できてないみたいあんたが生きてる分岐がないよ
湿り気が澱としていま襲い来る蛙の自殺を止められないの
関節球体人形がばらばらに床に倒れて投げかける キス
ウィンドウ並べた隙間にさしいれる欲深い夜ブラックアウト
システムを愛するという観点であなたのいない世界をつくる
神様は不眠不休で全員のイイネをきらきら光らせました
レンジには光がとらえられている出口はないのにただあたたかい
全員が彼の傷つく顔色を忘れたような静かな生活
もう二度と解凍されない包装をラップの向こうにかさりと触れる
死に方は君さえいれば忘れない明日も明日も明日も明日も
防腐され守られている君全て限りなき恋パウチしておく
あんたより早くに死ねる権利まだ買えてないから明日も、またね
作品名:短歌連作 分岐ルート「静かな生活」 作家名:哉村哉子