僕の居場所は君の隣(下)
駅まで自転車をこぎながら、こう考えた。
生きにくい世の中だからこそ、神様は一緒に生きる人との巡り合わせも用意してくださっている。
駐輪場の指定席に愛車を突っ込み、僕は彼を待っている。何度歯を磨いてもキスの感触だけは拭えないななどと思って頬が緩みそうになる自分にかつを入れ、間もなく現れる筈の貴也をどんな顔して迎えてやろうと考える。
待ってる時間も嫌いじゃない、埋め合わせはきっと濃厚なキスで果たされる。
やはりどうしてもやに下がる自分に苦笑したところで、相変わらず気だるげな貴也がやって来た。
「おはよ、今日は早いね」
もう、足音に賭ける必要はないからな。そんなことは言えず、「少しでも早く会いたかったから」などと軽口を叩くと、貴也は僅かに頬を染めた。
石川さん、貴也を返してくれてありがとう。
いつものように揺れる車内で、今日からは堂々と貴也の胸を借りようと、僕は秘かに思っている。
作品名:僕の居場所は君の隣(下) 作家名:瑠璃花