赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (22)
玄如節(げんじょぶし)は、福島県会津地方に伝わる民謡です。
名称は「げんじょ見たさに朝水汲めば、姿かくしの霧が降る」という歌詞に
由来するといわれています。
げんじょという美しい僧侶を村の娘たちが慕って歌ったと言われていますが、
逆に、げんじょという美しい村娘に、若者達が恋して歌った
とも言われています。
玄如節の最大の特徴は、何人かの歌い手が交代で一節ごとに
「掛け合う」ことです 。
歌うときには歌詞のあいだにハヤシの句が入り、
何度も繰り返されていきます。
ハー玄如見たさに 朝水汲めばヨー 男性 A
サーサー ヨイヤショーエ 女性 ハヤシ句
姿かくしの 霧がふるヨー 男性 B
ハー 霧がふるヨー 女性 B′
姿かくしの 霧がふるヨー 男性 B
サーサー ヨイヤショーエ 女性 ハヤシ句
玄如節のもう一つの大きな特徴は
歌詞が固定したものではなく、そのつどに即興で作られ、
1つの旋律に乗せて歌われることです。
すべてが即興の場合もありますが、実は、繰り返しみんなに
歌われてきた歌詞があり、それらがストックとして蓄積をされています。
それらの膨大なストックの中から、歌詞を選んで使う場合が多く、
一般な民謡などとは異なり、歌詞の順番が決っていないという
特徴があります。
昭和初期の古い書物に、玄如節についてのこんな記録が残っています。
『若い頃こくぞう様で、玄如節の歌と踊りを見たことがある。
柳津にお篭りにいった時のことで、七日堂の裸祭りのときにお篭りした。
9月30日にも行った。玄如節をやっているのを 見たことがある。
ほっかぶりしたり、尻をまくったりして踊っていた。
戦後にも見た。 老人達が玄如節を歌い踊っているのを、
若者だったころ一人で見ていた。
栗や柿などが 振舞われると、それを歌詞に歌い込んで
「栗づくし」や「柿づくし」をした。
かなり長 く続いた。60才に近い人が集まっていた。
間でみんなが休んでいるときに、長持ち歌などの民謡を歌わせてもらった。
自分では玄如節はしなかったが、柳津のお堂にある回廊 のようなところで
マイクを立てて、民謡を歌った。
聞く人たちは下に座ったり立ったり して見ていた。
本来玄如節は、特定の寺院や神社の行事に結びついたものではなく、
人が集まれば興がのって、どこでもおこなったものらしい』
エンヤー会津磐梯山は 宝の山よ 笹に黄金が エーマタなり下がる
という歌いだしで始まる『会津磐梯山』は、福島県を
代表する民謡のひとつです。
明治の初めに新潟県西蒲原郡や五箇浜地方から、会津に出稼ぎに来ていた
職人たちの唄と、前述で紹介をした会津古来の「玄如節(げんじょぶし)」
が混交し、後にいろいろな創作歌詞が付け加えられて、
ようやく完成をしたものです。
この唄が有名になったのは、昭和9年に
日本ビクターが長田幹彦に作詞をさせ、売れっ子芸者歌手であった
小唄勝太郎に歌わせて、全国的な大ヒットとなったからです。
しかし、昔から伝えられてきた地元の「会津磐梯山」とは大きく
異なるものであったために、会津民謡会では『郷土芸術を冒涜するもの』と
して同社に抗議したという、過去のいきさつなども残っています。
地元が認める『正調会津磐梯山』は、会津盆踊り唄として、全162番まで
歌詞のある、実はたいへん長い民謡なのです。
「その2番目の歌詞で登場するのが、
”(エンヤー)東山から日にちの便り(コリャ)
行かざなるまい(エーマタ)顔見せに”
と歌われている東山温泉です。
ここで活躍をしている東山芸妓の始まりは、明治初期です。
昭和30年代の最盛期には、なんと、200名以上もの芸妓がいたそうです。
新選組の土方歳三や伊藤博文、与謝野晶子などの著名人や文人に
愛された温泉です。
大小の滝を経ながら流れる湯川の渓流に沿って、
20軒余りの旅館やホテルがあります。
磐梯山に登場する小原庄助が、朝からお湯を浴びていたのがこの東山です。
この地へ小春が引っ越してくることで、2人は最初の危機を脱しました。
そうした手引きのすべてをしてくれたのが、いまでは会津の街場に
たったひとりだけ残っている、あたしの戦友の芸妓の市さんだ。
ほら。車の中で説明をした、あたしの古い知り合いさ。
その市さんと連絡が取れたそうだから、
これから東山のお座敷へ行きましょう。
いつもはお座敷などを務める立場ですが、本日だけはお客です。
ほら。豆奴。
お前さん、何を念入りに、お粉(おしろい)なんか
塗りたくっているんだい。
言ったじゃないか。今日は、3人揃ってお客の立場だって」
驚いた顔で、たまも豆奴の様子を振り返ります。
見れば片肌を顕にした豆奴が、何を勘違いをしているのか鏡に向かって
一心不乱に、お座敷用のお化粧の真っ最中です。
「あら。そうでした、お母さん。
お座敷と聞いただけで、もう、手が、念入りに動き始めてしまいました。
いやですねぇ。飾る必要なんかこれっぽっちも無いというのに、
なにやら一心に女を、本気で磨き始めてしまいましたねぇ・・・
職業病というのでしょうか。嫌ですねぇ、まったく」
(23)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (22) 作家名:落合順平