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痕骨

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世界はあらゆる場所に存在した。
陸・地・海・空さまざまな場所にも生物は適応し進化し生きてきた。その中で生物は支配する者とされる者とに分かれていく。
地底では『ゴラモ』と呼ばれる姿形が全く見えない霧のような生物に、海では『ズギュ』という全身を刃のように鋭い皮膚に覆われ白い蛇の形をした生物に、空では『ザガ』という、緋色の眼をした燃える翼をもつ生物によって支配されていった。
 そして、陸には『ミュバダ』と言う一見何の変哲もない人間が支配の座に立った。
『ミュバダ』は陸以外にも脅威の存在だった。
それは何故か?
 『ミュバダ』の体内には全ての世界の力の源が骨に染込み体内に組みこまれていた。
それゆえに『ミュバダ』は王になった。
王の名は――帝家――。

最狂にして至高なる孤高の存在・・・

        1

「・・・と言う訳。どう?これで次の獲物決定でしょ。」
「・・・・・・如何でも良いが、何でこんな所でお伽話を聞かされなきゃいけないんだ?」
地上三十メートルは在るだろう梯子の上で俺は部下から世界のお伽話に付き合わされている。此れでも仕事の話といえばそうなのだが、何故こんな場所で?
「それは頭が山賊の首領に喧嘩売ってそいつを半殺しにしたから、敵討ちだ!ってその他の団員に追い掛けられてるからジャン!」
「だってよ、アイツ俺の服に唾投げつけてきたんだぜ?其れを黙って見逃せって言うのかよ!」
数十分前の出来事を思い出しながら唸る。顔に熱が集まる。
「ともかく!どうするのさ?次の獲物。」
「そうだけど・・・この世界の昔話を今更されても何がなんだか・・・」
髪をかき上げ部下であるオスラに問う。
「だから〜、次の獲物を『ミュバダ』である帝家にしようって話をしてたんでしょ!」
オスラは紫紺の瞳を睨ませて口を尖らせた。高いところに居るせいか風が強くオスラの黒髪が風に煽られ視界を曇らせる。必死に髪を払う姿を見て無意識に笑いが込み上げてきた。
「・・・何笑ってんのサ・・・怒るよ?頭。」
「まあまあ。そう怒るなよ。悪かったって・・・」
両手をオスラの前に翳して見せる。オスラはまだ怒っているのか口を尖らせたままそっぽ向かれてしまった。
苦笑いのような困ったような顔をしているとオスラは唸るよう声を上げた。
「〜!頭はずるいよ。そんな顔しなくても怒ってないよ。」
そっぽを向いていたオスラはいきなり此方を向いた。勢いあまってかバランスを崩しそうになるが何とか持ちこたえたみたいだ。
「ははは!オスラは俺よりも年上なのに子供っぽいからな〜」
オスラは少しムッとしながらも仕事の話に切り替えた。
「・・・で?どうするんデスカ?」
いきなりの敬語に内心不安になりながら考え込む。答えはすでに決まっている様な物だったが折角オスラが探してきた久しぶりの仕事。なかなか決断するのには言葉が詰まる。
「そうだな・・・・やっぱり・・・ごめん!無理だ。」
俺は素直に断ることにした。
仕事をしない訳にはいかない。だが、諦め切れないことがある。
「まだ、探すつもりなの?もう五年だよ?」
「まだ五年だ!・・・まだ探せる・・・」
「いい加減にしなよ!五年も探して見つからないんだよ。諦めることも考えないと皆が浮かばれないよ!」
オスラの気持ちも分からないでもない。でも、皆を守れなかった自分の不甲斐無さが諦める気持ちを通避ける。

 忌まわしいあの事件からもう五年の歳月が過ぎ去った。
オスラを残し、俺の仲間はあの日霧の様に消えてしまった――
作品名:痕骨 作家名:柳 遊雨