ヤマザクラ
「約束をするよ、必ず帰ると。この桜の樹に次の花が咲く頃には、必ず。」
私たちの隣に立つ満開の桜の樹を見上げ、貴方は言う。私は「待っている」の一言が言えず、俯きながら貴方の袖を掴んだ。心配した貴方は垂れた私の前髪を撫ででくれる。
貴方は私の言葉を待っていた、なかなか出ない私の言葉を。きっと貴方は私の言葉が“待つ”の言葉でも“待てない”の言葉でもいつもの優しい目で私の言葉を受け入れる。それが分かっているから、言葉と一緒に涙も出ていってしまう気がした。貴方は優しすぎる。
なかなか出ない私の言葉に痺れを切らしたのは、貴方ではなく、満開の桜だった。桜は私の代わりに、という様に花びらを散らした。花びらは垂れた私の頭に、貴方の手に、舞った。
桜は待っていてくれるそうだ。君は?と私を撫でていた右手が止まる。桜に背中を押された気がした。私はゆっくりと頭を一度縦に動かした。そして「待っています。」私はこの場所に来てはじめて、貴方の優しい目を見て、伝えた。
これは日が向こうの山に入りはじめた夕暮れの約束。
かつて『約束の桜』と呼ばれていた樹は、今では『咲かずの桜』と呼ばれている。
私たちの隣に立つ満開の桜の樹を見上げ、貴方は言う。私は「待っている」の一言が言えず、俯きながら貴方の袖を掴んだ。心配した貴方は垂れた私の前髪を撫ででくれる。
貴方は私の言葉を待っていた、なかなか出ない私の言葉を。きっと貴方は私の言葉が“待つ”の言葉でも“待てない”の言葉でもいつもの優しい目で私の言葉を受け入れる。それが分かっているから、言葉と一緒に涙も出ていってしまう気がした。貴方は優しすぎる。
なかなか出ない私の言葉に痺れを切らしたのは、貴方ではなく、満開の桜だった。桜は私の代わりに、という様に花びらを散らした。花びらは垂れた私の頭に、貴方の手に、舞った。
桜は待っていてくれるそうだ。君は?と私を撫でていた右手が止まる。桜に背中を押された気がした。私はゆっくりと頭を一度縦に動かした。そして「待っています。」私はこの場所に来てはじめて、貴方の優しい目を見て、伝えた。
これは日が向こうの山に入りはじめた夕暮れの約束。
かつて『約束の桜』と呼ばれていた樹は、今では『咲かずの桜』と呼ばれている。