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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま　（17）　たまが迷子になったわけ

　
　昼寝から目覚めたたまが、清子の胸元をよじ登ります。
後部座席でウトウトしている清子の胸元をよじ登ったたまが、
いつものように清子の懐の中へゴソゴソと潜り込みます。
たまが迷子になるたびに、帰り道の指定席になるのが清子のいつもの懐です。
『ここが一番落ち着く』と、たまが指定席から、ヒョイと顔だけを
出した瞬間、清子の膝で目を覚ましたミイシャと、目が合います。


　『なにやってんの、あんた』

　　
　『上がってこいよ。暖かいぜ』とたまが目で、ミイシャを誘います。
爪を立てすぎないように注意をしながら、細身のミイシャが清子の着物を
ゆっくりとした足取りでよじ登っていきます。
『お前は反対側へ潜り込め。2人じゃさすがに狭いものがある』と
たまが笑っています。
気配に気がついた清子が、ミイシャの真っ白い体を抱き上げると、たまの
反対側の懐へ、顔だけ残して差し入れてしまいます。
後部座席で斜めに傾いたまま、またウトウトと眠りはじめた清子の胸元で、
顔だけを出した2匹が、進行方向の正面をジッと
静かに見つめています。



　三毛猫（みけねこ）とは、3色の毛が生えている猫の総称です。
白・茶色・黒の3色で、短かい毛を持っている日本独特の
猫のことを指しています。
白・茶色・こげ茶のものを「キジ三毛」と呼び、縞模様の混合のものを
「縞三毛」と区別して呼ぶことあります。
福を招くとされ、『招き猫』の代表的な色合いとしても
知られています。


　三毛猫の性別は、ほとんどがメスです。
ごくまれに（1000匹に1匹程度の割合）オスの三毛猫が誕生をします。
オスの三毛猫の誕生はその希少性から、地元のテレビ番組に
取り上げられたり、新聞記事になることさえあります。
ただし、オスの三毛猫が交配をしても、オスの三毛猫の子猫が生まれる
確率は変わらないと言われています。
オスが生まれる確率は、非常に小さいままなのです。　
　
　
　福を招く三毛猫を船に
乗せると、船が遭難しないと信じられています。
特にオスの三毛猫はその希少性のためからか、福を呼び船が沈まないと
言われ、江戸時代には、船頭たちのあいだできわめて高値で
取引をされていたほどです。
日本の第1次南極観測隊でも、珍しくて縁起がいいという理由から、
オスの三毛猫のタケシが連れて行かれ、昭和基地内のペットとして、
南極で初めての越冬を体験してしています。


　『で。貴重なはずの三毛猫のオスのあんたが、
　なんで湯西川あたりの置屋で、ウロウロとしているのさ』


　『おいらが生まれたのは、さるお大尽（だいじん）のお屋敷だ。
　那須の別荘に静養に行く途中、突然、平家の落人集落が見たいと言い出した
　わがまま娘のひと言が、おいらの不運のはじまりになった。
　ひと通り平家部落の見学も終えて、さて出発しょうとした矢先のことだ。
　トイレに行きたいと、また、わがまま娘が騒ぎ始めた。
　なにしろ親が溺愛をしきっているひとり娘だ。
　親も甘すぎるし、なにかにつけて過保護の傾向がある。
　あわてて、ドアを開けっ放しにしたまま、娘を
　コンビニのトイレへ連れ込んだ。
　仕方ねぇなぁと思いながらも、おいらも高みの見物を決め込んだ。
　座席の端っこで、一人ぽっちのまま、家族たちの帰りを待っていた。
　油断をしきっていた、そんときだった。
　どこかの悪ガキが、『猫が居た！』と、ヒョイと
　おいらの背中をつまみやがった。
　あっというまに抱き上げられたあげく、ドンドン車から離れていく始末だ。
　さすがに『これは、やばい』と危機感を感じた瞬間、
　悪ガキの親に発見されて、『返して来い』という騒ぎになった。
　やれやれ、これで無事に、家族が待つ車へ帰れると
　ホッと安心をしていたら、
　例の悪ガキのやつが、途中で、俺様を足元に放り出しやがった。
　『ちゃんと元の所へ返してきました！』なんて、ぬけぬけと親に大声で
　報告しながら、戻って行きやがる。
　どこを見回してみても、見えるものといえば、
　車のタイヤと人の足ばかりだ。
　途方にくれたものの、もう元に戻れる可能性はゼロだった。
　すっかりと諦めて、軒下に潜り込んでウトウトしていたら、
　下駄を鳴らして、いい匂いのする女がひとり、オイラの前を通りかかった。
　おっと思って、一瞬だけドキリとしたが、近くでよく見ると、
　これが、とんでもないババァだった・・・・』
　

　『その女の人が、
　今では飼い主の、春奴お母さんというわけか。
　へぇぇ。・・・その不幸な事件がなければ、今頃あなたはどこかで、
　プリンスのまま、優雅に人生を送っていたはずなのね。
　悪ガキのおかげで、結果的に、こうして私たちが巡りあえたわけなのか。
　因縁めいたものさえ感じますねぇ、あたしたちって』

　『おう、まったくもってそのとおりだ。
　こうしてみると、迷い猫の生き方ってのも、
　まんざらじゃねぇような気もする。
　幸運にも、お前さんという絶世の良い女にも巡り会えたしな。
　じゃあ、よう。そろそろおっ始めようぜ。俺たちの子作りってやつを』

　『それとこれとは、別問題です！』


　あっさりと拒否をされてしまったたまが、清子の懐で
ションボリとうなだれます。
『うふふ。お気の毒様』と、ミイシャがペロリと舌を伸ばします。
優しいタッチの毛づくろいが、たまの首筋の周辺で、
いつまでも続きます。


　『う、う・・・・
　そこ。そこが、おいらの性感帯・・・・』


　『ド変態、もう、知らない！』ピョンと懐を抜け出したミイシャが、
肩へ飛び乗り、そのまま清子の頬へピタリと寄り添うと『おやすみ』と
ウインクを見せたあと、両目をしっかりと閉じてしまいます。

（18）へ、つづく