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短歌連作 どこにもない国

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からっぽのロッカーにアルファベットチョコ並べたあとで四つを食べた

ひかげから踏み出したときのまなうらの真青の翳り きみのことです

全自動人形のごと祈りおりキミノナマエヲオシエテクダサイ

ぼくはまだ冷たい部屋で待っているぬるんだ世界が溶けていくのを

モールスで信号送るきつつきの理由なき焦りが漂って

灰色に塗りつぶされた日々のなか幕間抜けてひた走るだけ

新しい人生なんか見つからず玉ねぎの芽を切って食べたよ

黄薔薇のみ百万本も投げ捨ててえいえんにともだちでいてくれ

きらい、すき、きらい、すき、しね 花言葉<友情><あなたを恋します>

古電話問えば問うだけずるいひと「おまえに急に会いたくなった」

ソーダ水二本並べて待っている彼岸の泡が飲みに来るのを

「おまえにはアポロのピンクのところだけ食べつづけていてほしかったんだ」

笑っているかい八月の夜にふたり真白い月を見上げたように

どこまでもどこまでも行け閉ざされた真昼の国に帰ることなく

八月の嘘だよ二人きり残し世界が終わってしまったなんて

きみの手がガードレールもコンビニもまたたきの灯も溶かして歪み

なめらかに流れて行った石鹸の泡みたいだね 君だったんだ

ちいさいな、よごれてる、だめ、これもだめ、いちばん星を問い合わせてる

地下深く夜汽車がゆくよ君の名をごうごう叩き壊し尽くして

夕暮れにみつけた冷蔵庫のなかの腐った苺のぬるんだ甘さ

「おまえにはわからない鳥たちの行く森に撒かれた砂金のゆくえは」

ぼくのこと早く食べてよバクたちが夢をごくんと飲み干す前に

ちりちりに汚れる前に交差したレーゾンデートル解き明かしたい

どこにもない国へと消えてほしかった 傷つくことを知らないままで

ほらごらんきみのずるさを固めたよ舌の温度で溶かしてみせて

僕たちは生きてるうちにもう一度会えるだろうか 小舟を流す

過ぎた日の君の吐息の甘さまで絶対零度で保管してある

寝て起きた頃にはきっと忘れてるおまえの声のふるえるひびき

指先が精密な棘 そう それが君に伝えたかったひとこと

自壊するガラス片明滅する時のさりさりとした音楽、おやすみ

おちてゆく時にかすめた瞬きはぼくらが僕であるような夢

わたくしはあなたがくれた霊物を保管庫にまだ凍らせています

孕みゆく空虚の満ちる胎内で無となってさあ眠って君も

鷹よ振り向かずゆけ火のただなかに焦がれて燃えて終わるとしても

ずるい恋でしたねなんてふりかえるおまえがひとつまばたきをした