短歌連作 インスタント・マグカップ・チョコレートケーキ
こんなにも甘口にしたカレールーおまえは全部俺のものだろ
おまえだけだよパトラッシュ粉雪が嵐にかわるときに眠ろう
「スイパラで食ったみたいな味だよね、俺あればっか食ってたもんな」
心臓を食べてもいいよおれたちはもともとひとつのものだったろう
体重の一割で致死このなかでいちばんでかいやつをください
スコットとゼルダみたいに死ぬためにゼロをいくつも飼い馴らそうよ
深夜二時アイスクリームの海へ出るさなかに急な君のくちづけ
できるだけ君の言葉を聞いておく有事の際に持ち出すために
なあポール、正しい恋のレシピだけあんたが決めてくれればいいな
傷つけながら傷ついてさりさりと銀紙越しのいちめんのやみ
チョコレートシロップがけのコーヒーを飲まないことで意思表示とす
致命的世迷い事はここにあり零距離射撃で止めどなく撃て
バトルシーズンを心中するために選んだチップで早く撃ち抜け
捨てちゃっていいんだよって言い捨てて先に傷つくのはやめてくれ
できたてで甘くてもろく壊れやすいプリンのことだよおまえじゃなくて
おれたちは心中しようアーモンドチョコ並行に装填したよ
「おまえさあ俺よりチョコの方が好き?」「そうだよ」喧嘩したかったんだ
ひとりだけなんて愛せやしないから並んだチョコは全部食べちゃえ
「ジャン=ポール・エヴァンをいつもくれる人退職すんの残念だなあ」
二月馬鹿ばっかりの街眺めつつ名残の白をおしゃぶりしてる
あんきパンチョコペーストを塗って食うおまえ以外は覚えずいくよ
差し出したたましいの噛み千切られるつぎのいちれつおまえのぶんだ
人と人の家族となれる方法のたったひとつの冴えたおはよう
倍量をレンジにかけて食べましょうインスタントな泥濘の日々
作品名:短歌連作 インスタント・マグカップ・チョコレートケーキ 作家名:哉村哉子