グランボルカ戦記 2 御前試合
翌朝。
リュリュが執務に向かう為に部屋を出ると、ユリウスが廊下の壁にもたれかかって立っていた。
「・・・・・・おはよう。」
「・・・・・・うむ。おはよう。」
「これ。」
ユリウスは短くそれだけ言って何かが入った包みを差し出した。
「む?なんじゃ?」
「前にグランパレスに行った時に破れたろ。」
「・・・?」
「マントだよ、マント。ちゃんと留め具もバックルと同じようなウサギのにしてやったから受け取れ。」
「それは、所謂プレゼントと言う物か?」
「あ・・・ああ、マントは市販のものだけど、ちゃんとアンジェリカさんと一緒に選んだ良い物だから。それと、留め具はいいのがなかったから作った。」
「つ・・・作った?お主が?」
「ああ。昨日アリスさんといっしょに材料を買ってきて、習いながら僕が作った。」
少し顔を赤らめながら、ユリウスがぶっきらぼうに続けた。
「最初に君に会った時にひどい事を言っただろ。あの事、ちゃんと謝ってなかったから、そのお詫びみたいなものだと思ってくれればいい。」
「・・・・・・。」
「い、いらないなら別に留め具を外して僕が使うから受け取ってくれなくてもいいんだけど。」
きょとんとした表情のまま、包みとユリウスの顔を見比べているリュリュの様子に、ユリウスが慌てたような様子でそう言って、包みを引っ込めようとしたがユリウスが包みを引っ込めるよりも早くリュリュが包みをふんだくるようにしてユリウスの手から奪い取る。
「お主は、本当に第一印象とのギャップのある男じゃのう。」
「う、うるさい!受け取らないのなら別にいいって言ってるだろ。もうそれ返せよ。」
「ふふん。誰が受け取らぬと言った。リュリュに向かって差し出した以上、これはリュリュのものだ。文句はあるまいな?」
「・・・文句なんかないよ。」
「開けても良いか?」
「ああ。君のものだ。好きにしてくれ。」
リュリュは手早く包みを開けると、中からマントを取り出した。そのマントは表が白い布地、内側が赤い布地のマントだった。
リュリュは早速そのマントを纏うと、その場でくるりと一回転した。
「どうじゃ?可愛いか?」
「ああ、似合うな。」
ユリウスの少し照れくさそうな感想を聞いたリュリュの中にいたずら心がむくむくと顔をのぞかせ、リュリュは鼻を鳴らして不敵に笑った。
「ふん、リュリュは『可愛いか』と聞いておるのじゃ、似合うかどうかなど聞いておらぬわ。やり直しじゃ。どうじゃ?可愛いか?」
「かわ・・・いや、こんなこと意味ないだろ。」
言いかけてやめたユリウスににらみをきかせながら、リュリュが詰め寄る。
「ああん?お主、リュリュに侘びにきたのじゃろう?なのに、なんじゃその態度は。」
「く・・・。」
「ほれ、このマントを纏ったリュリュは可愛かろう?愛らしかろう。可愛らしいリュリュ様、図書館では無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでしたと言うてみよ。ほれほれ。」
「・・・ああ、可愛いな、本当に可愛らしくて、どこの七歳児かと思うほどだよ。リュリュ皇女、君のような幼い子にあんな冷たい態度を取るなんてあの時の僕はどうかしていたとしか思えない。」
少し歪んだ笑顔で、ユリウスが口元をひくつかせながら言い放ち、その言葉を受けたリュリュは地団駄を踏んで反論する。
「ぬあっ!子ども扱いするでないわ!しかも七歳じゃと?リュリュは十二歳の立派なレディじゃと何度言えばわかるのじゃ!」
「ああ、これは失礼いたしました、リトルレディ!」
「くぁぁっ!そのリトルをとれ、リトルを!」
そんなやり取りをする二人を廊下の陰から見守る影が5つ。
「リュリュとユリウス、案外噛み合ってるわね・・・。まさかソフィアの見立てがバッチリはまるとは思わなかったわ。」
「酷いなあジゼルちゃん。リュリュちゃんもユリウス君も素直じゃない似た者同士なんだから、バッチリうまくいくに決まってるんだよ。」
「まあ、これはこれで僕としては複雑なんだが。リュリュが遠慮せずに喧嘩できる相手ができたというのは、良いことなんだろうな。」
「まったくその通りです。寂しいことですが、私ではどうしてもリュリュ様も本気でぶつかってきてはくれませんでしたから。・・・とはいえ、もし万が一ユリウス王子がリュリュ様と一線を超えようとなさるならば、このアンジェリカが生命に代えても阻止いたしますが。」
腕を組んで苦い顔でつぶやくアレクシスの横で、アンジェリカがそう言って腰の剣に手をかけた。
「そうだな。その時は僕も一緒に行こう。」
「そんなことされたら戦う前にユリウスは泡を吹いて気絶してしまいますよ・・・。」
和気あいあいとユリウス討伐の相談をはじめるアンジェリカとアレクシスの話を聞いて、キャシーは、ため息をつきながらつぶやいた。
作品名:グランボルカ戦記 2 御前試合 作家名:七ケ島 鏡一