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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (11)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (11)妖艶な巫女姿

 
 「妖艶やなぁ、あの子。見かけん子だが、いったいぜんたいどこの子や。」
 
 シャッターチャンスを狙い、ひたすらファインダー越しに追い続けていた
初老の男が、ふっと深いため息を漏らします。
ようやくカメラから、疲れきってしまった自分の目を離します。
(久しぶりに熱くなった・・・・それにしても、不思議な魅力を持った
子やなぁ)


 男が額から流れ落ちてくる汗を、こぶしでぬぐいます。
男が見つめる先には、6人の芸妓たちに取り囲まれている巫女姿の
清子がいます。美人ぞろいといわれている、春奴一門の芸妓たちに取り
囲まれているのにもかかわらず、白装束に緋袴姿の今日の清子は、
その中でも、今日はひときわ凛とした
輝きなどを放っています。


 平家大祭の撮影に訪れた常連の男が、この200人あまりの行列を、
いつものように、獲物を探しながら見渡しています。
艶やかさと荘厳さと、勇壮な雰囲気を併せ持つこの平家絵巻行列は、
彼にとっては年に一度の楽しみであり、それを満足させる絶好の被写体です。

 小高い位置に陣取ると、最初のイベントの始まりを待ちます。
出陣式の最初の瞬間が、巫女姿の少女たちの出番です。
気高い少女たちによって演じられる巫女の舞に清められてから、
きらびやかさと雅さを誇る武者と美女達の行列がときの声をあげて、
平家由来の湯殿山神社の境内を、後にします。
 
 住民たちがそれぞれに扮した、平清盛や平敦盛、平重盛と姫君、
武者と白拍子たちが、安徳天皇の一行を擁護しながら、
総勢200名余りの武者行列となり、温泉街を横切って「平家の里」までの
登りの道、2kmあまりを歩きます。


 「ウチの20年ぶりの赤襟で、清子といいます」



 呆然と清子に見とれている男の肩を、ポンと春奴が叩きます。
『えっ。おかしいと思っていたら、やっぱり春奴一門の7番目の新人かいな。
それにしても、やたらと色っぽいなぁ、あの芸子。』
うふふと男の顔をのぞきこみながら、ふたたび春奴が笑いかけます。


 「何言うてんの。あんたも、相当にボケてきましたなぁ。
 あの子はまだ、半玉でも何でもあらしません。
 芸者志願で数週間前に、湯西川へやって来たばかりです。
 本格的なお稽古などは、なにひとつとして始まってはおりません。
 昼間から猫と遊んでいるだけです。
 普通の、どこにでもいる只のお嬢さんです」

 「馬鹿なことを言うんじゃねぇ。
 俺の目は、節穴じゃねえぞ。どこの世界に、ありきたりの普通の子が、
 春奴一門の美人芸妓衆に囲まれて、ニコニコとしているもんか。
 驚いたねぇ・・・・まるで、20年前に巫女役をつとめた、
 あんたの6番目の弟子で、
 あの妖艶だった女の子の、まるで再来だ」

 「豊春のことでしょ。なんだい。
 あんたの一番の、贔屓の芸妓の名前まで忘れちまったのかい。
 薄化粧をしただけの清子が妖艶に見えるなんて、いよいよあんたも、
 耄碌(もうろく)をしてきましたねぇ」

 「スっと手を挙げて、舞の素振りを見せただけでドキリとするものがある。
 嘘じゃねぇ。切れ長の目が妖艶で、こっちを見ただけでも、
 心がとろけそうだ。
 なんだよ。ただの俺の勘違いかよ。
 まだ修行にも入っていない、ど素人の女の子かよ。
 しかし、そうとは知っても、やっぱりなんだか気になる素材だな」


 「やっぱり、節穴じゃなさそうだ。あんたのその目は」


 「あたりまえだ。春奴一門という、粒ぞろいの6人の芸妓衆たちを、
 売り出す前の少女芸妓の頃から、つぶさに見つめてきたんだぜ。
 素材からいえば、あの子がピカイチの一番だろう」
 
 「うふふ。あの子には、別段、これといった取り柄はありません。
 舞は下手だし、物覚えも、あきれるほど遅いものがあります。
 強いて挙げれば、性格的に素直なことが取り柄かしらねぇ・・・・ふふふ」

 「嘘をつけ。お前とは40年来の付き合いだ。
 なにかがなければ20年ぶりに、お前が新人をスカウトなんかするもんか。
 実は有るんだろう、確たるものが。お前さんから見た目に」


 「芸者になりたいと、あの子の方から私のところへ飛び込んできたんだ。
 どうしてもなりたいという者を、頭から否定したんでは可哀想です。
 最後にもう一人くらい育ててもいいかと考えただけで、
 別に他意などは、ありません」


 「納得できねぇなぁ・・・・
 お前さん以上にあの6人が、喜んでいるのも妙に、不思議だ。
 で、芸妓名はどうするんだ。もうそれくらいは考えてあるんだろう」

 
 「呼ばれた瞬間に『はい』と瞬時に答える笑顔と、
 シャンと背筋を伸ばして座っている時のたたずまいには、
 女が見ても痺れます。
 姐さんたちも、そんな雰囲気の中から何かを感じているようです。
 名前のほうはすでに決めてありますが、訳があってまだ
 公表することはできません」

 『冷てえなぁ、お前も』と愚痴る初老の男の耳に、春奴が近づきます。
『大きな声では言えませんが、特別にお教えしましょう。あなただけには』
と、小声でささやきます。



 「・・・・な、何。2代目春奴を襲名させるだって!。
 な、何を考えているんだいったい、お前は」



 男の驚いた目を見つめながら春奴が、
『お静かに。すべて内密ですから』と、唇に人差し指を立て、
すこぶる妖艶に、かつ楽しそうに笑っています。

(12)へ、つづく