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でんでろ3
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千本桜

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私は今日も1日の仕事を終え、帰り道である商店街を歩いていた。今日も疲れた。どこかで晩飯でも食って、アパートに帰って寝よう。そう思っているところに声をかけられた。
「もし、そこな旅のお方、占って進ぜよう」
辻占というやつか、シャッターの閉まった商店の前に、小さな机を1つ出して、大きな虫眼鏡を持った老人が、私に話しかけてきた。
「いえ、結構です。それに、私、旅なんかしてませんし……」
「大凶」
「あっ、てめぇ、勝手に占うなっ!」
「お代は5千円です」
「そんな無茶苦茶が通るかっ」
「というのは冗談じゃ。タダで占って進ぜよう」
「タダ?」
私は思い切り胡散臭いものを見る目で占い師を見た。
「なんじゃ? 疑うのか?」
「いや、どうせ、思い切り悪い占いをして、私が不安になって先を知りたくなったところから、金を取るとか言うんじゃないの?」
「そのような事はない。しかし、先ほど言った大凶は本当なのじゃ。君には大いなる災いが襲いかかろうとしているぞ」
「ほら、来た。それで、どうすればいいのかは、金を払わなきゃ教えないとかいうんだろう」
「そんな事はない。それでは、教えて進ぜよう。今日のあなたのラッキー・パースンは! ズバリ! 桜の下で待ってるあの人じゃ」
「えっ? どの人?」
「だから、桜の下で待ってるあの人じゃ」
「だから、あの人って、どの人?」
「それを、知るためには5千円……」
「誰が払うかっ」
 私は踵を返すと家路を急いだ。そういえば、この商店街を西に抜けると、結構長い桜並木の通りがある。あんな奴の言う事を気にするつもりもないが、ちょっと行ってみようか。なに、ちょっとした遠回り。結構長いと言ったって、たかが知れている。ちょっとした散歩……って、あれ? こんなに長かったっけ? 何本あるんだよ、桜の木。と思って、ふと横を見ると、「千本桜」という看板があった。
「もし、旅のお方」
と、そのとき、急に声をかけられて、びっくりした。見ると、1本目の桜の木の下に1人の女性が立っていた。線が細いというのだろうか、どことなく儚げな印象の女性だった。
「いや、だから、俺、旅してないし……」
「あなたをお待ち申し上げておりました」
「今日は、他人の話聞かない人とよく会う日だな」
「あなたをお待ち申し上げておりました」
「あんたはRPGの村人Aか? それしか言えないのか?」
「分かりました。残念です。次へお進みください」
「次……?」
 私は、訳が分からなかったが、促されるままに前に進んだ。すると、
「もし、旅のお方」
と、また、声をかけられた。声の主は2本目の桜の木の下にいた。それは、どこからどう見ても、さっきの女性だった。
「あれっ? いつの間に?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、どうやって俺より先に移動したんですか?」
「何をおっしゃいますことやら。私は、ずっとこの桜の木の下で、あなたをお待ち申し上げておりました」
「また、それですか?」
「何をおっしゃいますことやら。私は、悠久の時を経て、やっとあなたに巡り会えたというのに」
「えーっと、つまり、あなたは、外見は村人Aにそっくりな村人Bで、役割もほぼ一緒ということですね」
「何と悲しいお言葉を……。ほろりほろりほろほろり」
「何ですか? それ?」
「泣いているのでございます」
「次、行ってみよー!」

「もし、旅のお方」
私は、肉体的にも精神的にも限界に達していた。今が何本目なのかも分からない。
「だから、旅はしてないんですよ」
無駄なやり取りは省けばいいのに、どうしても止められない。
「あなたをお待ち申し上げておりました」
何度、彼女を受け入れて、楽になってしまおうと、思ったことか。しかし、こんな得体のしれない女とは、絶対にお近づきになりたくない。
「申し訳ありませんが、次に行かせて頂きます」

 終わりはないのか? いいや! 終わりはある! 桜の木は千本。無限ではないのだ。そう思ったとき、女の出方が少し変わった。
「もし、旅のお方」
「旅してませーん」
「あなたをお待ち申し上げておりました」
「次、行きます」
「そろそろ楽になったらいかがですか?」
「……えっ?」
「そろそろ楽になったらいかがですか?」
「……それは、初めて聞くなぁ」
「そうなのですか? 私には、今までのことは分かりかねますので」
そのとき、私は思った。女の誘いに乗ってしまおうかと。抵抗しても無駄なのではないかと。心がぐらつき、崩れかかったそのとき、ある考えが閃いた。
「あはははははは、あーはっはっはっ。分かった。分かっちゃったもんねー」
分かったぞ。女が、なぜ、急に、あんなことを言い出したのか。焦っているのだ。出口が近いのだ。そうに決まっている。

 あれから数本。気力を振り絞って、前に進んだ。
「次に、行くぞ」
歩を進めると、やったぞ! 桜の木がない! 俺は桜並木を突破したんだ! すると、そこには、あの占い師が居て、こう言った。
「おー、片側5百本よく頑張った。反対側の5百本も頑張るんじゃぞ」
作品名:千本桜 作家名:でんでろ3