小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (4)

INDEX|1ページ/1ページ|

 
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (4)廃娼運動とは

 
 「女性の人権を擁護する立場から、公娼制度を廃止しようとして
 取り組まれてきた社会運動のことさ。
 日本では明治以後に、矯風会や救世軍などが積極的に活動をしてきたの。
 昭和31年(1956)にようやく売春防止法が制定されて、
 遊郭や赤線地帯といった公認の娼婦制度が、すべて一掃されました。
 群馬県はそうした動きに先駆けて、はるか明治時代にすでに
 唯一の廃娼県として、議会で決議をしていたんだよ」


 気持ちよさそうに眠っているたまの頭をなでながら、
清子が不思議そうな顔を若女将に見せ、コクリと小首をかしげます。
キラキラと光る清子の瞳に、難しい娼婦の話は無縁すぎる世界です。 
遊郭・娼婦・赤線という過激な言葉に、ピクリと小耳を動かし
反応を見せたたまも、清子の懐の暖かに誘われて、
また元の眠りの中へ落ちていきます。


 「そうか。わかんないよね、お前の歳じゃ。
 売春の温床だった赤線や娼婦なんて言葉は、もうまるっきりの死語だもの。
 ところでさ、お前。好きな男の子はいるのかい?」


 歩みを止めた若女将が、切れ長の清子の目を正面から見つめながら
突然、ズバリと切り込みます。
さらりと揺れた前髪の下で、清子の瞳が大きくまん丸に見開かれます・・・・
『おっ、面白そうな話になってきた!』眠りに落ちかけていたたまが
目を覚まし、小耳を、ピクリとそばだてます。


 「おや。赤くなってきたところを見ると、図星かい。
 そうか。もう恋する気持ちくらいは、判る年頃になっているんだね。
 女はねぇ、好きな男に精一杯の恋をして、その人の子供を
 何がなんでも産みたくなるんだ。
 それが女の幸せな生き方さ。そういう想いを抱きながら、
 女はみんな、好きな男に嫁いでいくんだよ」


 「それで若女将も幸せそうな顔をしているんですね。そのせいで」


 たまの小耳が、ピクリとまた反応を見せます。
困った顔を見せた若女将が、ふたたび真近から清子の瞳を覗き込みます。


 「お前。本当に、綺麗な目をしているんだねぇ。
 一点の曇りもない、澄んだ瞳が眩しくって、とっても綺麗だよ。
 でもねぇ。あんたはまだ15だけど、あたしは、まもなく30になるんだ。
 あたしだって、あんたと同じくらいの年頃の時には、
 たぶん、お前と同じような目をしていたはずさ。
 でもさぁ。一筋縄じゃいかないんだよ。世の中と、しがらみというやつは。
 あ。15の子供に、いまさら愚痴をこぼしてみても始まらないか・・・・
 何を言おうとしているんだろ。バカみたいだ、あたしったら」


 「若女将も大変ですねぇ。悩みが多すぎるようです」


 たまの小耳が、ふたたびピクピクと過敏なまでに動きます。
うふふと笑いはじめた若女将が、懐から袋に収まった飴玉を取り出します。
『口をあけてごらん』と、綺麗なピンク色の飴玉を、ひとつつまんで
清子の目の前にかざしてみせます。
たまがいそいで、小さな口を精一杯に開けてみせます。



 「お前じゃないよ、たま。生意気だねぇ、子猫のくせに」


 ポンと飴玉をひとつ、清子の口に放り込みます。


 「あとは、持っておいき。宇都宮の老舗の飴玉だよ。
 用事で出かけたついでに、今でもこっそりと買ってくるのさ。
 子供の頃から大好きな飴でねぇ。
 何か哀しいことがあっても、こいつを舐めているとみんな忘れちまうのさ。
 お前の綺麗な瞳を見ていたら、あたしの少女時代のことを
 なんだか、いろいろと思い出しました。
 なんかあったら訪ねておいで。わかるだろう、あたしのホテルは」


 「はい。平家ゆかりの、伴久ホテルの若女将さんです。
 あたし、ここへ来た時から憧れていました。
 初めてお会いした時から、もう、ときめいていたんです。
 いつお見かけしても、とっても、背中姿が素敵なんですもの」

 
 「おや。素敵なのは背中だけなのかい。
 じゃあ、あたしを前から見たら、一体どうなるんだい?」

 
 「はい。美しすぎてドキドキします。
 有頂天になって、頭の先から足の指まで痺れてしまいます!」


 「うふふ。生意気なことを、平気で言う変わった娘だねぇ。お前も。
 なんだかあたしまで、あんたのファンになっちまいそうだ。
 気をつけて帰るんだよ。置屋の春奴お母さんにも、よろしくね」

 くるりと背を向けた若女将へ、
たまが、ニャァ~と甘えた声を投げかけます。


 「おや。お前まで見送ってくれるのかい、たま。
 でもね。女同士の会話に、男のお前は出しゃばってなんかこないの。
 無理か・・・・そんなことを教えても。
 生まれて間もない、歩くたびに迷子になっちまう子猫には。うっふふ」

(5)へつづく