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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (2)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (2)食事中のたまと、こわもての板長


 「お母さんからは、
 芸者は綺麗に座ることがお仕事ですと教わりました」

 「ほう。その通りだ。
 もじもじしないで、シャンと背筋を伸ばして座れば誰でも美人です。
 そうすれば、大きなお姉さんたちと同じように、
 粋でいなせな芸者さんになれます。
 ふぅ~ん。よく見れば、春奴お母さんがいつも愛用してきた晴れ着だね。
 お前のこれは。やっぱり・・・・結城紬の上物だ」


 「そうですかぁ、でも。、若女将・・・・
 なんだか子供じみていて、着ていて肩上げが有るのが気恥ずかしいんです。
 これって・・・・」

 「生意気言うんじゃないよ。肩上げは親の愛情の証だ。
 成長途中の子供に合わせて、着物のサイズを調節する便利な方法が
 この肩上げとおはしょりだ。
 これからまだまだ成長するという親の愛情が込められている、
 なによりの証明です。
 子供の肩上げを外すことは
 『これ以上成長しないこと、と、死ぬことを連想させる』ので、
 大変不吉とされているし、忌み嫌われていることだ。
 たとえ1センチでもいいから、親は子供の成長を願って
 一生懸命に、肩上げを縫うんだよ」


 『ほら。たまが居たよ』と、若女将が路地道で立ち止まります。
老舗旅館の裏手で、食事中のたまの姿とそれを見守る板長の
白衣の姿がそこに有ります。
こわもての板長の目が清子に気づいて、何故かギョロリと光ります。
食事中のたまも、気配に気づいて一休みします。
小さなたまの頭が胡散臭そうに後方を振り返ります。
『なんだ。清子か・・』フンと鼻を鳴らしふたたび食事にとりかかります。


 「ここの板長の銀次親方です。見た通り顔も怖いが、性格も荒いよ。
 曲がったことが大嫌いで、高価な盆栽の松だろうが、気に入らないと
 真っ直ぐに伸ばしてしまうくらいですから。
 お前さんもこの湯西川で長年仕事をするのなら、丁寧にご挨拶をしなさい。
 お前さんの未来が、かかっているんだよ。
 たま以上に可愛がってもらえるかどうかの、大事な瀬戸際だ。うふふ」


 「若女将。そうやって子供をやたらに脅かすんじゃないよ。
 本気にして、怯えているじゃねぇか。
 おう。お前さんは食い物に、好き嫌いがあるか?。
 嫌いなものが有れば今のうちに俺にちゃんと白状をしておけ。
 湯西川の旅館全部に、
 『清子はこれとこれが大嫌いだから、絶対に出すんじゃねぇ』
 と命令をしておいてやるから。
 どうだ。有るのか無いのか、好きなものと
 嫌いなものは」


 「お母さんが、好き嫌いは言うなと、たいへん厳しく申しております」


 「もと辰巳芸者の春奴姐さんといえば、粋が信条のお方だ。
 当然、そのくらいの答えを言えと、おめえさんに教えるだろう。
 だがな。子供のくせに遠慮することはねぇ。ここだけの内緒の話だ。
 嫌いな物があるんなら今のうちに、はっきりと俺に言っておけ。
 怖い顔をしているが、結構、役には立つぞこの俺は」


 「たとえ嫌いであっても、すすめてくれるお客様の前では
 いつでも、にっこりと笑って『いただきます』とお礼を言います。
 食物はたとえ嫌いであっても、後々になってから、
 人の身体の血となり骨となり、活力の源にもなるそうです」


 「まいったねぇ。若女将。
 子供だと思って油断をしていたら、見事に一本取られちまった。
 さすがに、弟子はもう取りませんと言い切っていたあの春奴姉さんが、
 特別にこの子だけはと、見込んだだけのことはある。
 お前さんはよう。いまも現役で頑張っているあの伝説の辰巳芸者の春奴が、
 20年ぶりに手がけるという、久しぶりの赤襟なんだぜ。
 春奴同様、俺も、お前さんの成長していく姿を見ることと、
 行くすえの芸者姿を見ることが、今から楽しみになってきたぜ」

 「ごめんなさい。銀次親方。
 やっぱり清子には、嫌いなものがひとつだけありました」



 「おう、気が変わったか。なんだ、遠慮しないで言ってみろ」

 「化学調味料です・・・・」


 「ん、化学調味料?。
 ああ、わかった。最近流行り始めた、味の素だのハイ・ミーとか言う
 即席の化学添加物のやつのことか。
 安心しな。ここの板場ではそういうものは、一切使わねぇ。
 天然素材のものでちゃんと出汁を取る。なんだ、化学調味料は嫌いか」

 「はい。舌がピリピリと痺れます」


 「へえぇ、こいつは驚いたぜ。
 子供のくせに舌の感性も、素質的には一流だ。
 そうだよな。いまどきのいい加減な調理人たちは、流行りの
 化学調味料などを多用して簡単に味を作り出そうと考えているようだ。
 だが安心をしろ。本物の和食を作る俺たちは違う。
 旨いものをたらふく食わせてやるから、早く一人前の芸妓になって、
 贅沢なお座敷へ上がってこい。
 楽しみにしているぜ、俺も。お前さんがそうなる日を」

(3)へつづく