MayBe
人で埋め尽くされた満員のバス、地下鉄構内の無機質な雑踏、奇声が飛び交いざわめきで蒸し暑くなった教室―。全て自由な翼で抜け出せたなら、どんなにいいだろう。もしくは声を張り上げて、私はここにいる、そう主張できたなら、どんなに気持ちいいだろう。
けれど私には、大空を翔るだけの翼も持ち合わせていなければ、自分の存在を認識してもらえるだけの声の上げ方も知らない。
未熟だからだ。
卵の殻に包まれた鳥の雛が、必死にそこから脱出しようともがいても殻が破れないもどかしさ。生まれたばかりの赤ん坊が、どんなに足掻いても泣くことでしか意思表示出来ない虚しさ。私の気持ちは、例えるならばそんな感じだ。
私は今日も、行き交う大勢の人波の真ん中に突っ立っている。素知らぬ顔をした人々は、器用に私を避けて、どこへ行くのかそれぞれ明確な意思を伴って足早にすれ違って行く。私はその波には決して抗わない。そして、流されない。
だけど、私は決まって、小さな孤独を胸に抱えるのだった。そしてそれは、誰にも打ち明けられることなく私の心の奥底に静かに葬られる。