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桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
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花鳥風月 かまいたち【完結】

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 いつの間にか、街が動き出している。

 耕作と翔はいたって普通の、いや普通より仲のいい兄弟だった。
どこにでもある家庭の、どこにでもある兄弟だった。
ただ、耕作は頑張っても結果を出せないタイプで、翔はわりと器用で何でもそつなくこなすタイプだった。

 翔は耕作の優しさを知っていたので、いつも後ろをついて歩いた。
今、耕作が時間つぶしをしているこの公園も、よく2人で遊んだ場所だ。

 20年前のクリスマス、翔は両親に発売したばかりのRPGのゲームソフトをねだった。
両親は2人が4教科の中に1つずつ高評価があったら買っても良いと条件を出した。
結局、翔は2つ高評価を得たが、耕作は1つも高評価を得られなかった。

 耕作は自分はゲームソフトはいらないから、翔に買ってあげて欲しいと懇願した。
しかし父親の一言でそれは簡単に却下された。

「どうして、おまえは翔のように出来ないんだ」
父親は耕作がなにをやっても、大抵このようなことを言った。
それを母親はただ、見ているだけだった。

 そして耕作は次第に、頑張らなくなり無気力な態度になっていった。
でも、翔だけはいつも
「おにいちゃんは、きっとすごい人になるよ」と笑って言っていた。


 1991年12月25日。翔は行方不明になった。
はじめは誘拐ということも疑われたが、脅迫の電話もなく翔を連れた怪しい人物の
目撃談も一切無かった。しかし、9歳の男の子が蒸発ということも考えられないし、
翔には家出をするような理由も無かった。結果的に事故に遭ったのではないかと、
近所の川や、山の中をかなりの人数で捜索したが一向に行方はわからないままだった。

 翔と最後にあったのは、耕作だった。
あった、というより、いた、のだ。
それもこの公園だった。この公園からの帰り道、耕作の後ろを付いてきているはずの翔が、
振り返ったときにはもう、いなかった。

 警察や両親に何度も何度も質問された。
「──何か見なかったのか?──」
「──何が起こったんだ?──」

 耕作は責められているような気分になった。
「──何でおまえじゃなかったんだ?──」

 だから耕作は、あの男のことは言わなかった。