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桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
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花鳥風月 かまいたち【完結】

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今朝は、時おり強い風が吹く。

耕作が修正納品を済ませ、営業所に戻ったのは午前5時を大きく回っていた。
同じ時間帯に走っている同僚たちは各々喫煙所でしゃべったり、トラックの中で
仮眠を取ったり、休憩室のテレビを囲んで軽い食事をしたりしている。
終業点呼を受けるため、耕作は事務室の中央の点呼場に立っていた。

「お疲れ様でした、東野さん」
運行管理の瀬戸は、耕作を待っていてまだ休憩に入れずにいた。
「すみませんでした」
耕作は俯き小さな声で修正納品の件を詫びた。
「えっと、店舗を出発する前に、降ろし忘れや降ろし間違いがないか
 充分確認してから、次の店舗へ向かうように気をつけてください」
「はい、気をつけます」
「東野さんは、今日は1走のみで上がりになってます、
 ほかに連絡等はないですか?」
「特にありません」
「じゃあ、上がってください、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」


「なんで、いつもこうなんだ」
更衣室の長椅子にどさりと座りながら耕作は言った。
動くのが面倒になった耕作は、そのまましばらく座っていた。


がちゃりと更衣室のドアが開き、2走3走勤務の後輩榎木が入ってきた。
「あれ?耕作さん、早いっすね?あ、1走ですか?」
「ああ、今日は1走だけで上がりだよ」
「2走、走らないんですか?いいなぁ~、早く帰れて」
「まぁな、でもそうでもねぇな。今日は」
着替え始めた榎木を見て、耕作も重い腰を上げた。
「この時期になると、どうも家の雰囲気が悪くて嫌なんだよな」
耕作は制服のズボンをだらしなく脱ぎながら言った。
「そうなんすか?クリスマスとか家でやらないんですか?」
榎木はすでに着替えを済ませ、ロッカーに寄りかかりながら耕作を見ていた。

耕作はネルシャツのボタンを一通りしめて、
「今日は、うちの家族にとっては厄日なんだよ」
と革ジャンパーを脇に抱えながら言った。
「厄日?」
榎木は聞きなれない単語に不思議そうな顔をした。

「現に、降ろし忘れなんてやっちまったしな」
耕作はロッカーに鍵をかけながら言った。
「え?耕作さんがミスるなんて珍しいっすね」
普段ほとんどミスのない耕作を知っている榎木は驚いた。

「だから、厄日なんだよ。今日は」
二人は更衣室を出て廊下を並んで歩いていた。
榎木は今日の勤務のことを、耕作は20年前のことを考えていた。