国語辞典
ほら、委員会も一緒だったろ?
俺は君と結構仲良かったつもりでいたけど、クラスが別れてから、初めのうちは廊下ですれ違っても挨拶くらいはしてたよな?
だけどある日を境に挨拶もしなくた。俺の顔見れば回れ右してどっか行っちゃうだろ??
完璧避けられてる気がするんだけど。どうしてだよっ。俺なんか悪いことしたのか?
「なんでだよー!!!!!」
ペチっ☆
「うるさいよ、あんた」
隣の席の笹田が俺の頭を定規で叩いた。
「っってーな。それでも女かよ」
俺は頭を抱えて笹田に抗議する。そして君のことを思い出す。
君がこんな笹田みたいな女じゃなくて良かった。優しくて、柔らかくて(知らんが)いい香りで。
今日もこのまま俺の妄想だけの1日が過ぎて行くのだろうか。
「笹ちゃんいる!?」
ドキン。君の声が教室の後ろの入り口から聞こえた。笹ちゃんって、笹田の事か?
「千夏、どうしたの?」
笹田が席を立って後ろに向かった。
俺は机に出ていた国語辞典を読んでいる?フリをしていたが耳はダンボになっていた。
「私も持ってないや、ごめん千夏~。誰か聞いてあげようか?」
「いいよいいよ。悪いし」
なんだ?なんだ?何か貸して欲しいのか?
俺は振り向く事も出来ず、黙って国語辞典に目を向けていた。
すると後ろからバサッと勢いよく国語辞典を引っこ抜かれた。
「っなにすんだよっ」
俺も勢いよく振り返る。後ろには悪戯っぽく笑う笹田が立っていた。
「千夏が国語辞典貸して欲しいんだって、いいよね?」
俺は一瞬驚いて教室の後ろの入り口を見た。
「あっ、、えっと。。」
そこには少し困った顔をした君が俺を見ていた。
「笹ちゃん。いいよいいよ。岡崎君も困るだろうし」
嘘まじ!?やっぱ俺のこと覚えててくれたのか?今、岡崎君って言ったよな?
「いいのいいの、岡崎はどーせ勉強なんてしないんだから」
「なんだよそれっ。」
「ホントの事じゃん。いいでしょ?」
この女~、、いい奴じゃん。今日だけはお前、女神に見えるぞ。
「まぁ、いいけど。」
俺は心とは裏腹にぶっきら棒に答える。
「だって。はい、千夏」
君は笹田から国語辞典を受け取ると、にっこりと笑った。
「ありがとう、明日までお借りします」
「あぁ、、いつでもいいよ」
久々に君と目を合わせて話が出来て、俺は今なんてハッピーなんだ。
笹田、ごめん、俺お前を誤解してた。お前っていい奴だったんだな。
「キモ」
「は?俺、今口に出して何か言ったか?」
「言ってないけど、顔がキモイ」
「んだよ、やっぱり前言撤回!」
「は~?なにそれ」
それから新しい1日がまたやってきた。
今日も君と接点がお約束されている。
1時間目が終わったあと、君が俺のクラスにやってきた。
「岡崎くんっ」
来たっ!!その時を待っていたはずなのに、いざその時になると、直ぐに振り向くことができない俺。
なんて意気地なしなんだよ!俺は!
パシッ!!
「ってーなっ」
俺が頭を抱えて振り向くとやはりそこには笹田が(後ろっ!)とジェスチャーで君が来てる事を教えてくれていた。
サンキュー、促してくれて。でも、もう少し違う方法で教えてくれるとありがたいんだけどな。
「お、おう。サンキュー」
そう言って俺は君いる教室の入り口へ向かう。
「国語辞典返しに来たんじゃないの?」
「かな」
すれ違いざまに笹田に聞かれて、平常心を装い答えた。
「昨日はありがとう。これ、丁寧に使ったつもりだけど確認してみて」
「あっ、いいよ。どーせ元々汚れてたところあったし」
君が少し照れくさそうに言ったから俺も余計な会話も出来ずに、国語辞典を受け取った。
そのまま軽く頭を下げて君は小走りで自分の教室へ戻って行った。俺は君のその小さい背中を見えなくなるまで目で追った。
俺が席に戻る頃には2時間目の授業が始まるところだった。
数学の授業のはじめ、先生が黒板に向かっている隙を見て、俺はさっき戻ってきた国語辞典を眺める。
あー、、昨日はお前ばっかあの子に使われてズルいぜ。ちゃんと、お役に立ってきたんだろーな。
そんな事を思いながら、ゆっくり国語辞典をめくる。
パラパラパラパラ、、、
おっと。
今なんかあったか?確かに何か見えた。
俺は少しずつページを戻ると、クローバーを形どった付箋が挟んであった。
そこには「昨日は」の文字。
俺の頭の中は?だったが、少し考えた後、謎は解けた。
その付箋がはってあるところに載っている言葉・・・
それは
『ありがとう』
「あ・・・」
俺は左手で自分の口を押さえた。こうでもしなきゃ今にも叫びそうだったからだ。
思わぬメッセージに俺は驚いたのと、嬉しさでたまらなかった。
君はなんて可愛いことをしてくれるんだ。こんなこんな。。。
続けて俺は震える指をなんとか使い、君の事を思いながら国語辞典をめくっていく。
すると、また付箋が挟んであるページを見つけた。そしてやはり何か書いてある。
「ずっと前から・・・」
俺はその書かれていた言葉をさっきの要領で今度は直ぐに解読できた。
『好き』
ガタンっ!!!
あまり衝撃的な解答に、俺は椅子ごと後ろへ倒れた。
一体これは何が起きているんだ?
クラス中に笑声が溢れるのも聞こえないぐらい俺は方針状態だった。
「ちょっと岡崎なにやってんの!?」
隣の笹田もさすがに驚いて仰向けになってる俺の顔を覗き込む。
我に返った俺はその笹田にピースサイン。
「よっしゃー!!」
俺は教室の天井を仰いでガッツポーズをした。