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七十五歳の女性が芥川賞

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七十五歳の女性が芥川賞





 七十五歳九箇月の女性が、芥川龍之介賞を受賞して話題になっている。
 ところで、そのような話題の新人の出版物が、飛ぶように売れるという現象はどうかと思う。
 横書きで平仮名を多用し、カタカナを使わない。カギカッコを使わない。固有名詞がない。
 それは新しい手法の作品には違いない。だが、私は縦書きのほうが好きである。旧い作風を愛している。だから私はわざわざ書店へ行ってそのようなものを買い求めたりはしない。
 執筆者が高齢者であるからと云って、素人小説投稿サイトで作品を公開している人たちは興奮しているだろうか。そんなことはないと思う。でも、芥川賞を受賞したいと思っている人は、いるかも知れない。
趣味でやっているうちは愉しくて夢中だったことが、職業になったら面白くなくなったという話を、よく聞く。そういうことを聞くと、私はもったいないと思う。
 書くことをせっかく愉しめていたのに、輝いていた時間が、そのために色あせてしまう。締切に追われる。売れ行きが伸びないと嘆く。もう書きたくないと思う。だが、そんな我が儘は云っていられない。もっと話題になるものを、もっと売れるものを、書いて欲しいと要求される。
 だが、高齢者に対しては、そんな無理は云わないかも知れない。書きたいものを、書きたいときに書いてくださいと、売る側は笑顔で云ってくれるだろうか。
 受賞した人が云うように、残された時間は限られている。その中で自由気ままに書いて行きたいと、私は思う。
 或る小説が百万部売れたとしても、元の原稿は印刷が開始される前と同一のものなのである。作者の、その作品への想いは変わらない筈だ。

                了