どきどき様?
その後、小首を傾げてボクを見る。少し、哀しげな目元で、口を尖らせて。
「駄目?」
「駄目じゃないけど、驚いた。そういう人が居たんだね」
「もう!」
キミの可愛い目元が吊り上がった。頬も若干、膨れたような…もっとも恐怖を感じたのは、すくっと立ち上がり、平均台を渡るように真っ直ぐボクに向って歩み寄ってきたことだ。
「どうして そんなこと言うの!はい、ちゃんと見て……」
言葉尻は、か細く頼りない声に変わっていきながら、デジタルカメラをボクに差し出す。
「これ?…これ出逢った頃の夏」
よくよく見ると、刷り込まれたdateは四年前の八月。
見覚えのあるメンズ水着。そういえば、サーフィンなどしないくせにサーフパンツを買ったことがあった。
だが、ボクの腹の余分が、画像にはないではないか。
「今もいいけど、この頃、格好良かったね」
「あ、ああ…これってボクだよね」
「うん。今年は一緒に行けるかなぁー海。だからシェープアップしてるの」
「え?ダイエット?」
「んーそれは、なかなか難しい。でも水着が似合いたいから、少し努力。…内緒でしてたのに。そうだ。一緒にしよう。恥ずかしくない程度に…ね」
「まあ、だんだん暖かくなるように、徐々にね」(あー約束しちゃったぞ。どうする…)
嬉しそうなキミの笑顔とボクの苦笑が、暖かな部屋の中でほのぼのと空気に溶ける。
机に向き直り、ペンを持つ手と腹の肉を探る手。
あ、早くこの原稿を片付けなくっちゃ。
キミと過ごしたあの夏のドキドキ。
そして、今年の夏まであと○ヶ月。
ボクのどきどきサマーが始まるのかな。
今、デジタルカメラの中のボクと向き合っている。
ただそれだけなのに……。
― 了 ―