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「舞台裏の仲間たち」 60~61

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 くわえて、渡り職人でもあった2人の従業員は、
らちのあかない修理仕事ばかりの繰り返しに、不満を爆発させ、
ついに工場を辞めてしまいます。
順平たちの説得もむなしく、亀田金型の残ったのは雄二ひとりになってしまいます。

 仕事が滞りすぎてプロジェクト事業そのものが、
完全に停止の状態に陥ってしまいます。
その決定的な原因となったのは、台湾において亀田社長が失踪をしたことです。
その一報がもたらされるのとほぼ同じ頃、順平も上層部に呼び出されました。
会議の席上に顔をみせたのは、プロジェクトの責任者たちです

 「台湾での合弁事業は、中国側とほぼ合意と言う決着をみました。
 これ以上の金型製作は、台湾では成果が認められないということで、
 長期にわたって凍結、ならびに最終的には、中止にするという、
 本社からの結論が出ました。
 したがって、台湾に進出をした金型関連会社はすみやかに撤退をして
 次なる目標としてすでに周知済みもである、
 香港進出に備えてください」

 「それでは、亀田金型は・・・・」

 「社長が不在では、どうにもならんだろう。
 それに、もともと我々が狙っていたのは、
 将来的に返還が予定されている、香港からの中国本土への上陸だ。
 ふたつの中国ともいわれている台湾からでは、
 中央突破にも時間がかかりすぎる。
 台湾はあくまでも、香港アプローチへの第一歩だ。
 中国側のメーカーと連携が成立したということで
 台湾進出は、当初の成果を納めたということになる。
 亀田君には気の毒なことをしたが、まあ、名誉の戦死と言うところかな。
 やっこさん、典型的なエコノミックアニマルだからねぇ」

 「亀田社長は相変らず、消息不明のままですか」

 「順平君。
 君もその目で見て来て分かっているように、
 今の台湾の実力では、我々が求めている金型など到底造れないことは
 よく理解していると思う。
 亀田社長だって、それは充分に承知をしていたはずだ。
 国内で挫折寸前だったが、万に一つの可能性に賭けてチャレンジをしたが
 やはり結果的には、時期早尚ということだろう。
 彼の奮戦が、今回の香港への足掛かりを作ったという点で
 評価すべき部分もおおいに有るが・・・・
 プロジェクト自体の赤字は、特別損失と言う形で本社が処理をする。
 ということで、君の会社でも、
 次期の香港に向けての体勢をとってくれたまえ。
 担当を紹介するから顔を覚えておいてくれ、
 次回からは、彼が窓口になる。
 たぶん台湾でも、一度会っているはずだと思うが」

 紹介されたのは、貞園の居た店で
亀田社長が連れてきた、見覚えのある背広姿の営業マンでした。
黒田と名乗った営業マンは、にこやかな笑顔で向こうから握手を求めてきました。
名刺には、東南アジアプロジェクト室長代理とあります。

 「先日はどうも。
 亀田社長のことは大変に残念ですが、
 本社でも、本格的に香港へターゲットを絞りこみました。
 私は成型部門が専門ですので、次回からの香港進出に関しては
 金型の専門家でもあるあなたと、最強のタッグを組む事になります。
 近いうちに香港の下見も予定していますので、そのせつには、
 よろしくお願いします」

 如才なく挨拶をする中で、
彼は意図的に「最強」という部分に力を込めて発音をします。
ビジネスが全てと言っているわけではありませんが、
この男の背後には、巨大な企業の利益の最優先主義が常にうごめいています。
こうしてわずか3カ月余りの展開の中で、台湾プロジェクトは
国内で亀田金型を壊滅させ、国外では亀田社長が失踪をするという結果だけを残して無期限の凍結ということで、事実上の撤退を決定してしまいます。

 それにもかかわらず、東南アジアプロジェクトは
すでに次のターゲットを、香港上陸と定めて始動をはじめました。
「俺たちは、いったいどこに向かって進んでいるんだろう・・・・」
企業の強欲さの一端を覗き見た順平は、なぜか背中にひやりとするものを
感じながら、部品工場の会議室を後にしました。