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ラッキーアイテム

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今日のラッキーカラーは「ゴールド」それから・・ラッキーアイテムは「眼鏡」

千尋は毎月買っている恋愛星占い専門誌にもう一度目を通した。
24歳、どこにでもいるごく普通のOL。恋愛星占いなんて雑誌を、毎日チェックしているなんて、恋愛音痴と誤解されそうだが、これはあくまでも趣味の域に属すものだ。
パタンと本を閉じると立ち上がり、部屋の中をキョロキョロとする。
「ゴールドかぁ、、。あっ」
千尋はドレッサーに置いてあったヘアゴムを手に取る。そのヘアゴムにはプラスチックで出来たゴールドのお花のモチーフが付いていた。
そのままドレッサーの前で手際よく髪をまとめると鏡に背中を向け、手鏡で後頭部をチェックした。ちょっと高めの位置にまとめられた髪にお花のモチーフが金色に光る。
「よし、これでいいね」

千尋が部屋の時計を見ると、いつも家を出る時間より5分も過ぎていた。いつもギリギリ出社なのに、これじゃ遅刻しちゃう。
そう思った千尋は大急ぎでコートを羽織ると、家を飛び出した。途中、ラッキーアイテムの事をすっかり忘れていた事に気付く。
「眼鏡なきゃ、だめじゃーん」
占いをこよなく信じる千尋はそれでも家へ戻る時間はないと判断したのでそのまま突っ走った。

日頃の行いが大して良いわけでもないのに、千尋はなんとかいつもの電車に乗り、いつもの様にギリギリ出社した。
事務所にはもうみんな来ていて、朝礼が始まるところだった。
「おはよ、間に合って良かったね」
息を切らしながら入ってきた千尋に気付いた、憧れの一哉先輩が言った。
「あっ、はい。おはようございます」
千尋は赤くなる頬を見られないよう、すこし俯き加減になってしまう。
(よしっ。朝一で先輩に声かけられるなんてすごくツイてるっ。やっぱりラッキーカラーが効いたのかもっ。眼鏡忘れたけど、運気がいいみたい)
千尋は上機嫌でデスクに座ると、ヘアゴムのゴールドのモチーフを指でつついた。



「さっきから一人でニヤニヤして気持ち悪ぃー奴」
同期の榊原聡一朗がそう言いながら、通りすがりに後ろから髪を引っ張った。
「痛っ。なにすんのよぉ」
千尋はせっかくまとめた髪の毛を気にしながら勢いよく振り返る。

「あっ・・・榊原・・・?」
榊原聡一朗も振り返り、千尋をケラケラと笑いながら見ていた。
振り返った榊原聡一朗はいつもと全然雰囲気が違って見えた。何気なく、さりげなく。それは本当にごく自然に千尋の視界に入ってきた。

それは千尋が初めて見る榊原聡一朗の眼鏡姿。
千尋はしばらく見惚れてしまった。固まる千尋を榊原聡一朗も不思議に思って戻ってくる。
「どうかしたの?お前」
不意に顔を覗かれ千尋の顔にボッと火が付く。
「ななな、なんでもないっ。あんたの眼鏡姿が素敵だなーなんて思ってたわけじゃないんだからっ」
(何言っちゃてるのっ私)
「はー?なに口走っちゃてるの。惚れちゃったとか?」
「馬鹿っ、そんなわけないでしょ。あっち行ってよ」
「はいはい、ひでーな」
呆れた榊原聡一朗は、頭を掻きながらいつも通り仕事に戻って行った。千尋はそんな榊原聡一朗の後ろ姿を目で追いながら思った。
今日のラッキーアイテム。
「眼鏡」


火照りがまだ治まらない顔を千尋は両手で覆いながら、指の隙間からまた榊原聡一朗の眼鏡姿をこっそり堪能した。


















作品名:ラッキーアイテム 作家名:ケム