コメディ・ラブ
ずるい
ド派手な赤の外車が待ち合わせ場所の公園の前で止まる。
閑静な住宅街とこれほどマッチしない車もないと思う。
予想通り近所の主婦や子ども達が何事かと集まってきた。
普段から目立ちたくないと言っている人に限って、どうしてこんな派手な車に乗りたがるんだろう。
ギャラリーを横目に車に乗ると、一気にエンジンをふかしギャラリーにアピールするように走り去った。
あいつは口を開くなりこう言った。
「今日は特別な場所に連れてやる」
大都会のとあるビルの最上階に私と晃はいた。
「お前の為に貸切にしたから」
「本当?ありがとう。綺麗だね」
「お前の方が綺麗だよ」
しかし、現実は違っていた。
「ここが俺の生まれた病院」
晃が車の窓越しに指さす。
「へぇ……」
出身中学とか小学校ならまだしも、どうして出生病院まで案内されなくてはならないんだろう……
「次は俺が通ってたそろばん教室ね」
返事をせずに窓の外の閑静な住宅街が続いていく様子を見ていた。
夜中の東京湾クルージングとか、高層ビルの夜景とか、高級レストランとかそんなことが羨ましかったわけじゃない。
羨ましかったわけじゃないのに……
「ついたぞ、降りろよ」
顔を上げると、古ぼけた公民館が目の前にあった。
「懐かしい!」
あいつはこっちを全く気にせずに先を歩いていくので、慌てて車から降り、あいつの5歩後ろを歩く。
「ここの駐車場で昔な缶けりしたんだよ。そうだいいこと考えた、缶けりするぞ!」
あいつは足元に落ちてた缶を足でたてた。
もう我慢の限界だ。
「……どうして?どうしてここなのよ」
「どうしてって見せたかったからさ」
「…他の女には高層ビルからの夜景やらクルージングとか用意したりして、それなのに私はそろばん塾って」
「俺は見せようと」
ふと横を見ると小学5年生くらいの男子に気付かれる
「あっ、晃だ」
「サインちょうだい」
次から次へと人は増えていく
途中にあった神社の石段を上がる。
息が切れるけれど、なんとか頂上まで上がりきった。
一番上の段で腰かけ、眼下に町が一望できた。
しばらく黙ってみていた。
「綺麗だろ?俺は何の思い入れもない高層ビルなんかより、俺の街をお前に見せたかったんだよ」
そう言うとあいつはそっとキスをした。
本当にこいつはズルイ。
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko