コメディ・ラブ
手作りのお料理
「えぇ。帰るの二日も伸びたの?」
「しょうがないでしょ。監督が撮り直したいって言うんだから」
せっかくアロマを焚いてリラックスしようと思ってたのに……
一気に優海のテンション下げ下げになっちゃった。
ほっぺたを思いっきり膨らまして、牧子さんにイヤダアピールをしてみる。
けど、牧子さんの方が数段上手だった。
「ほらっ。優海、新しいお料理の本買ってきてあげたから」
「本当?有難う!嬉しい!」
本を受け取ると我慢できなくてその場で開けちゃった。
牧子さんは最近機嫌がいいみたいで晃さんのこと言っても全然怒らない。ラッキー!
それどころか応援してくれてる気がする。
「晃さん何が好きかしらね?」
「うーん。何かな?優海、本人に聞いてこよう!」
ウキウキしながら本を抱いて部屋を出た。
部屋に入ってきて、俺はすぐに電話を取り出した。
「もしもしちょっと頼みたいことがあるんだけど、うん、明日。100人位ね。あとメイクさんも照明さんもお願いね」
電話を切ると、すぐに紙と鉛筆を持ち作業に取り掛かった。
恋愛の神と呼ばれたこの俺が、このまま引き下がれるわけがない。
部屋をノックする音が聞こえた。
「晃さん、優海です」
「ごめん、俺今忙しいから、またあとで」
そう言ったにも関わらず、優海ちゃんはそっとドアを開けた。
「優海ね、最後にみんなにお料理作ろうと思って、何がいいか選んで欲しいの。晃さんそこからでいいから指さして」
俺は作業したまま適当に答えた。
「じゃあそれ、15P目のやつ。俺子どもの頃これのプールで泳ぐことが夢だった!」
「本当?ちゃんと見た?」
「見たよ!俺、エスパーだから本の内容は読まなくてもわかっちゃうんだよね」
少し顔を上げると、優海ちゃんは頬を膨らまして俺を睨んでいた。
作業を続けながら優海ちゃんの機嫌を取ろうと続ける。
「俺本当にそれ好きなんだよ。楽しみにしてるから作ってきてよ」
「……もう知らない!」
それだけ言い、優海ちゃんは本を投げ捨てて帰っていった。
優海ちゃんが置いていった本を広げると15Pは調理器具の紹介ページだった。
俺って本当いい加減なやつだな……
今まで何度こうやっていい加減なことをして、何人の人を傷つけてきたんだろう……
新品だけど、少しページが曲がった不格好な本を見て思った。
その時、大事なことを思い出した。
この作業よりも先に俺にはやるべきことがあった。
出かけるついでに、優海ちゃんの部屋の前にポストイット付きの本そっとを置いておいた。
何となくここにいそうな気がしてトニーに入っていった。
やっぱりここにいた。
「亀山いいぞ!やった同点だ!」
「彼、友達だから今度サイン貰っとこうか?」
課長は驚いて振り向く。
「あっ、晃さん!」
「よっ!」
俺は軽く手を上げる。
「おばちゃん、晃さんにもビール持ってきて」
「ありがとう」
「さあ、いよいよ同点です。延長10回表、3番ボデスからの好打順……」
野球中継を聞いているふりをしてお互いに話す言葉を探っていた。
課長が笑顔で喋り出す。
「俺は負けてても、諦めませんよ。ほらもう同点まで追い付きましたから」
何故だか、俺も思わず笑ってしまった。
「次の回で勝つのかな?俺も全くわからないよ」
「そう言えば亀山と友達って本当ですか?」
「本当。この間も一緒にクラブ行ったし」
「あいつ!シーズン中なのに何やっってんだよ!」
「ヤベッ。余計なこといっちまった。これ、丸秘な!」
「……大丈夫です。わかってますよ」
すぐに近所のおっさん達も交じって大宴会状態になってしまった。
優海が散歩に行こうとドアを開けると、メモ付きの本が置いてあった。
晃さん、優しい……
その優しさにまた涙がでてきちゃった。
「牧子さん、聞いて」
隣の牧子さんの部屋に入ろうとしたら、牧子さんが誰かと電話している声が聞こえてきた。
「もしもし、牧子です。はい、例の件は大丈夫です。優海は本当に晃さんのこと好きみたいなんです。
わかりました。じゃあ向こうの事務所とも相談して計画進めましょう。はい、失礼します」
???
優海は全くわからないけど、なんか嫌な予感がした。
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko