コメディ・ラブ
俺のほうが知ってるよ
布団の上で目を閉じるが眠れない。
誰かが部屋の戸を叩く音がする。
「晃さん。優海プリン作ったの」
優海ちゃんだ。悪いけど今は誰とも話す気力がない。
「もう寝ちゃったのかな」
足音が遠ざかる。
俺はまた寝がえりをうつ。
「……今日告白するって言ってたよな」
美香が部屋で一人でテレビを見ている。
哲也が突然、ドアを勢いよく開けて叫ぶ。
「ずっとお前が好きだった」
美香が涙を流して立ちあがる。
「うれしい。私もずっとあなたを好きだったのよ」
美香、哲也をベッドに押し倒す。
「ねぇ。いいでしょ」
美香、哲也にウィンクする。
自分の妄想の後味の悪さに俺は思わず跳び起きる。
布団の周りを歩きまわる。
「話を整理しよう。べつに課長と美香が付き合う、別にそれはそれでいいじゃないか。俺には関係ない、そう関係ない、関係ない」
なんだか不思議と心が落ち着いてきた。
俺はまた布団に寝転がる。
「……最近疲れてたからな」
再び、目を閉じる。
寝苦しさを感じ、何回も寝がえりをうつ。
「ひつじが1匹、2匹、……124匹」
なんか眠れそうな気がする。
「……106878匹、106879匹。ああっ。もう!」
「安心、安全、オリーブオイル」
テレビを見ていたら、またあいつが出てきた。
「……あと3日なんだから、ちゃんと来いよ」
私は独り言を言いため息をつく。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴る。
重い腰をあげ、ドアを開ける。
「あっ。てっちゃん!」
てっちゃんは重苦しい雰囲気で言う。
「……今日は美香に大事な話があってきた」
「どうしたの?とりあえず上がって」
てっちゃんが珍しく正座をしている。
私もその雰囲気に押され、向かいに正座する。
「そんなに改まって、どうしたの」
てっちゃんは一言も喋らない。
テレビの音が部屋中に響き渡る。
「安心、安全オリーブオイル」
私は思わずテレビを消す。
「うん……てっちゃんが何を言いたいかわかるよ……この間も理科室でこの話言いかけてたよね」
てっちゃんは驚いて私を見る。
「気付いてあげられなくてごめん」
私は立ち上がり、箪笥から預金通帳と印鑑を持ってくる
「水臭いじゃんかよ。友達だろう。好きに使っていいから。やっぱり旅館赤字なんでしょ?」
てっちゃんが思わず口を開く。
「そうじゃねえよ。旅館は黒字だ」
「嘘っ!」
「嘘じゃねえ」
てっちゃんはポケットから小さな古い手紙を取り出し、机の上に置く。
「……15年前お前の家に行ったんだけど、間に合わなかった」
「えっ?」
「あの時、お前が机の中なんかに入れるから、本当は嬉しかったのについつい迷惑って言っちまったんだよ」
「……そうだったんだ。」
私は机の上の手紙を読む。
「美香、ごめんなさい。俺は本当は美香が大好きです。
大人になったら結婚しましょう。」
私は思わず顔がほころぶ。
「この紙、懐かしい。……まぁ昔のことだしね、もう気にしてないからさ」
哲也が真剣な眼差しを向ける。
「気にしてくれよ」
私は驚いて顔を上げる。
「えっ?」
「俺は今でもお前が好きだから」
思わず手紙を落とす。手紙はひらひらと床に落ちていく。
「返事は今すぐじゃなくていいから。よく考えてくれ。それじゃあな。」
てっちゃんは私の顔も見ずに立ち上がり出て行く。
落ちた手紙をそっと拾う。
「どうして……」
俺はパジャマを着たまま、あいつのアパートの前に来てしまった。
足音が聞こえたので急いで電柱に隠れる。
課長が暗い顔でアパートの階段を降りて出てきた。
この時間に出てくるってことは、成功はしてないはず。
「よかった」
俺は自分が呟いた言葉に驚く。
「なんであんなやつのこと」
近くにあったでかい石に座る。
空を見上げると満天の星空だった。
課長の昼間の言葉が頭に浮かぶ。
「美香はああ見えても、優しいし、気遣いができるし、面倒見いいし、化粧してお洒落したらそれなりに美人なんですよ」
俺はゆっくり立ち上がる。
「……俺のほうが知ってるよ」
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko