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たいむましん

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私は、ぼーっとしながら公園のベンチに座っていた。
特になにがあるわけでもなかったのだが、
得体の知れない不安に襲われ部屋を飛び出しここに辿り着いたのだ。

ベンチに座りながら、音楽プレーヤーの曲をくるくる回す。

適当な所で止めてみて、
とりあえず聞いてみる。


さっきからその繰り返し。


今の私にぴったりと合う曲をくるくるくるくる探している。

どれもこれもはまらない。

少しずつ違う。




「ん?これなんだ??」



ふと見つけた、聞き覚えのない曲。
私は思わず押してみる。


どこか懐かしい音楽だ。
目を閉じる。

沸き上がる懐かしい気持ち。
頭の中に広がる、懐かしい場面。



私はなんとも言えない気持ちで目を開けてみる。




「えっ?!」


気が付くと私は、

自分の机の前に座っていた。
しかし、いつもあるはずのパソコンがない。

私は少し慌てる。
どうやらこれは今の私の部屋ではない。
もう一度、部屋をぐるりと見渡し何気なく机の上に目をやると、1枚の紙が置かれている。


”進路希望”


あぁそうか。
思い出したぞ。

これは高校の三者面談の2日前だ。


自分の希望の道と出資者である親との希望が合わず、
泣きながら書いた進路希望だ。

この日、私は一大決心をして折れる事に決めたんだ。
毎日泣きながら悩んで自分で出した答え。

あの日の事は忘れない。


最後の決断を先生に伝えるとき、
私はやっぱり涙が出てきて俯きながら言ったんだ。

今でも後悔している。

これはあの時だ。

そしてこの曲は、あの頃ずっと頭で流れていた曲だ。
まるで私の気持ちとピッタリとあっていたような、あの曲。

私はなんとも言えない気持ちになって 、目の前の進路希望の紙を見つめた。


「ん?待てよ。」


もしかしたら、今からこの紙を書き直せばやり直せるのだろうか?

私は、あの時と同じように頭を抱えながらCDの再生ボタンを押した。







「なんだ、夢か。」


手にはいつもの音楽プレーヤー。
どうやら私は、いつの間にか眠ってしまったらしい。

私は少しガッカリしながら、再びくるくると曲を探し始めた。

今度は目をつぶって、適当に再生ボタンを押してみる。


「お、これは・・・」

私の中に、再び懐かしい気持ちと風景が蘇ってきた。



そしてゆっくり目を開けた。




「え?・・・ここは?」



ここは見覚えのある場所。
そうだ!ここは駅のホーム。


気が付くと、私の体には斜めがけの大きなカバン。
そしてなんだろう....このドキドキ感とヘトヘト感。



「あーそっか!」

これは大事な大事な、私の”初めて”の日だ。


今でも思い出す・・・

目の前には大きな扉。
私はワクワクしながら扉を開ける。

初めての観劇。

薄暗い劇場の中はなんだか不思議な雰囲気で、
劇場に足を踏み入れた途端、全身の鳥肌がたった。



懐かしいな、この感覚。

これを見終わった後、私は決心したんだ。



私はあの日のように、チケットを確認して座席に座る。
またゾワッと鳥肌が立つ。

もう1回この気持ちを味わえるのか・・・


ワクワクしながら劇場の中をぐるりと見渡す。
と、その時、あの始まりの音楽が流れ始めた。

私の体は音楽と劇場の空気に飲まれていく..



気が付くと、私は公園のベンチに座っていた。


「うん、よし。」


もう絶対に忘れない。

私の小さなタイムマシンは、それからすぐに壊れてしまった。



作品名:たいむましん 作家名:葵ハル