なんて日だ! ショート7つ
お爺ちゃん 68才 1人暮らし
3日前、テレビをつけたまま寝てしもうてのぉ、
夜中に目が覚めたらセクシーな番組をやっとったんじゃよ。
ワシはビックリしたんじゃ。
そのときに初めて「SM」ってもんを知ったんじゃ。
昔じゃったら考えられんような内容やった、
あげなもんがテレビっジョンから流れてくるなんたぁ。
じゃけん、ワシも見たことのないもんで何とのう最後まで見てもうたんじゃ。
それ以来ちゅうもん、ワシゃテレビを一度もつけとらん!
好きな野球も見とうなくなったわい!
なんちゅう時代じゃっ!
もうテレビはいらん!
まぁ、ワシには可愛い盆栽達がおるで、
テレビなんぞ観なくても一向にかまわんのじゃから。
ワシゃこうやって縁側に座って、盆栽を眺めていれば幸せなんじゃよ。
婆さん死んでからは、ずっとこうしてきたんじゃ。
ポカポカお日さんにあたって、鼻毛でも抜いとるんがエエんじゃ。
ブチッ、、
あたた……
ちと、抜きすぎたようじゃ、鼻毛
あたた、、
じゃが、この痛みがタマランのぉ〜♪
………、
……?
……。
― はぁぁぁぁ!!! ―
これは……「えむ」ってもんじゃろか!
痛みを気持ちエエと感じとるぞ……
ワシゃ「えむ」ってもんじゃったのか!?
毎日ワシは喜んで鼻毛、抜いていたのが!!
鼻糞を指でほっじくっとる時もか?
あん時もワシゃ痛みを気持ちエエと感じちょったぞ!
小指を鼻の中で可能な限りのあらゆる角度を駆使して
ほじくっちょったぞ……。
その痛みを愉しんじょった……。
____完全に元気を無くしたお爺さんは、
盆栽を観るのをやめて部屋に戻ろうとして立ち上がったその時
………、
……?
……。
― あ、、、、、あれぇぇぇぇ?!!!! ―
ワシゃさっきまで自分のこと「えむ」ってもんだとばかり疑っちょった。
自分の痛み、楽しむ「えむ」じゃと……。
じゃが、その痛みを創っているのは……、ワシ自身じゃなかかっ?
鼻に指を突っ込んで、痛みを与え苛めてるのは、ワシじゃなかか!!
ワシゃ、「えす」も「えむ」も持っとる変態なんか!?
____自らの「鼻毛抜き」「鼻糞ほじり」の行為をM的なものだと考えて驚愕し、この数刻の間に人生観までも揺らいでいたお爺さんは、更にその喪失感の中で明らかに自ら鼻を苛め、痛めつけ、喜びを感じているS的な自分を見つけ出してしまったのだった。
この日以来、お爺いさんは亡き妻の仏壇の前には座れなくなってしまった。
〜〜 おわり 〜〜
作品名:なんて日だ! ショート7つ 作家名:夢眠羽羽