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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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君だけに愛を

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 郵便受けを覗いたら、高校の同窓会の案内が来ていた。内容もろくに見もしないで半分に切ると往信のほうをゴミ箱に放り込んだ。
──どうせ欠席だ。
 大学三年の頃、第一回の同窓会があった。そのときには出席したおれは、忌まわしい出来事に遭遇して、それ以来出てはいなかった。

 翌日、会社に行くついでにポストにはがきを投函した。
 昼休み。社内食堂で定食をもそもそ食べていたら、
「ご一緒してもいいですか?」
 若い女子社員が数人、寄ってきた。
「ああ。いいよ」
 自分で言うのも何だけど、おれはもてる。
 高校の時も大学でも結構女子から言い寄られていた。そして、会社でも。
 正直にいうと、高校の時つきあっていた女子がいた。おれは今でもその子にほれている。
 その子と一緒になるために、幸せにするために、おれは一流とまではいかないまでも、それなりの大学に行って勉強したんだ。大手企業に入るために。
 それが、いったいどこで歯車が狂ったのか。

 もうすぐ四十五だというのに未だに一人だ。見合いをした数は両手の指、いや足の指を入れても、まだ余るほど……。

 食事を終えかけたころ、それまで静かな音楽が流れていた社員食堂に賑やかな曲が流れ始めた。

 ──君だけにぃ 君だけにぃ♪

「あら、タイガーズ」
「え?」
「うふ。うちの母が若い頃ファンだったジュリー」
「ずいぶん古い歌をやってるんだ」
「昼休みのこの時間、リクエストを受け付けてくれて、流してくれるんですよ」
「なんていう歌?」
「えーと、たしか『君だけに愛を』」

 ──君だけに愛を、か。

 黒目がちの大きな瞳が印象的な子だった。肩すれすれで切りそろえた黒い髪がさらさらで、日本人形のようだった。高校を卒業してもデートは続いていたんだ。
 なんで別れたのか?

 あの日。初めての同窓会の日。
 短大を出て有名化粧品会社に勤めた彼女は結婚するって言い出したんだ。上司に見初められて──

 おれの密かな努力は水の泡だった。

 そうだ。それからだ。同窓会なんか二度といくもんかと心に決めたのは。

(たしか、今日は同窓会だったな)
 布団の中でごろごろしながらぼんやりと考えていたら携帯が鳴った。幹事からだ。
「なにやってるんだ? もう始まるぞ!」
「え? 欠席でだしただろ」
「出席になってるよ」
「ええ?」
「とにかく来い!」
 強い口調で幹事に言われ、急いで着替えてしぶしぶ家を出た。
(まちがいなく欠席にしたはずなのに)
 腑に落ちないまま、タクシーを拾い会場に駆けつけた。

 会場に一歩入ったおれは、たちまち彼女に釘付けになった。
 まるでそこにだけ光が当たっているかのように、自然におれの目はそこに集中した。
 彼女は変わっていなかった。あのころのままだ。ほんの少し小じわがあるだけで。
 彼女は未亡人になっていた。
 おれの気持ちを知っていながら、上司と結婚したのは、家の事情があったからだという。
 彼女は謝ったが、もう、おれにはそんなことどうでもよかった。
 
 彼女はやっぱりおれの天使だ。
 
 あとでわかったことだが、彼女が出席することを知っていた幹事のやつが、おれに引き合わせようと電話してきたのだった。
 
 あれから、ときどき、おれは彼女とデートしている。結婚するかどうかはわからないけれど、楽しかった青春時代をもう一度満喫している。  
作品名:君だけに愛を 作家名:せき あゆみ