最後に会わないほうが後悔するから会ってきたの、君に
私は君に何もしてやれなかった
して、やれることは見ることだけで
こんな自分が情けない
こんな自分が憎らしい
最後の姿を看取れなかった
苦しんでいる姿を見れなかった
泣いている声を聴きたくなかった
そんな君が可哀相で
早く死んでほしいと願った自分は
愚かだろうか?残酷だろうか?
君に問うこともできなくて
聞くこともできなくて
それとは裏腹に
長く、もっと長く
一緒にいたい
この世界でまだ
生きててほしい
そう願ってしまう自分は
愚かだろうか?残酷だろうか?
ろくに会いにもいかない
触りもしない
なのに
ただ生きているだけで
安心していた私がいて
でも
死んで安心している私もいる
だけどそれよりも
悲しさが上回って
どうすればいいのか分からない
何をすれば君のためになるのか分からない
何をすれば許されるのか分からない
それでも
私はふつうに生活するのだろう
君がいなくなっても
私は生きているのだから
明日もふつうに
笑うのだろう
ふと
君のことを思い出して
視界が歪むのだろう
そんな明日を迎えることが
嫌で嫌で嫌で嫌で
もう今日も終わってしまう
君はここで終わってしまったのに
私はもうすぐ
明日を迎えてしまうんだ
ここでさよなら
ここでさよならだよ
だから、会いに行ったの
君の報告を聞いてから
何分も自分の部屋で放心していた
何もない部屋の天井を見て
お空に無事に昇れただろうか
そう思っていた
そう思っていたことに気づいて
私は君がいたはずの、隣の祖父の家の方向を見た
違う
君はそこにいるじゃないか
私が、ただ逃げてるだけで
君はまだそこにいるのに
涙でぐちゃぐちゃになった顔で
私は立ち上がった
最後に、ほんとに最後に
どんなに自分が泣いてでも
君に、会いにいかないといけないと思った
息のしない、体温のない、声のない
横たわる君の姿を想像して
私は足が竦んだ
部屋の扉の前で立ち止まった
家の玄関で立ち止まった
でも家を出たときには、もう迷わなかった
私は死んでしまった君に会いに行った
温もりのない体に触れた
呼吸のしない姿を見た
何も映さない瞳を見た
何も泣かない君を見た
安心した
涙が出た
思い出がたくさん蘇った
意地悪をして滅多に噛まない君に噛まれて怪我したこと
嬉しそうに尻尾を振ってひっくりかえってお腹をだしてきたこと
走り回って遊んだこと
お水をあげたこと
ずっと頭を撫でて二人でのんびりしたこと
求愛行動されてびっくりしたこと
ごはんの邪魔をされたこと
猫のように顎下を撫でてあげたこと
君の腰を手で擦ってゴリゴリマッサージすると喜んだこと
一緒に車の助士席に半分ずつ乗ったこと
顔に息を吹きかけると擽ったがって、最後にはいじけてしまったこと
甘えん坊だけどちゃんと小さい子には優しかったこと
いっぱい いっぱいあるけれど
全部 全部
忘れたくないな
覚えていたいな
私はこれから大人になるけれど
この17年間を
大切にしていきたい
忘れないで生きていたい
君と一緒にいたことを
本当に幸せだったと感じてる
ありがとう
本当にありがとう
何もしてやれなくて
ごめんね
さようなら
さようなら
またね
クー
私は絶対、忘れないから
クーの幸せを祈ってる。
作品名:最後に会わないほうが後悔するから会ってきたの、君に 作家名:織嗚八束