きみにあいたい
おれはそうひとりごちて、さっさと欠席に丸をつけてはがきをきりはなすと、羽織ったコートのポケットにねじ込んだ。
近くのコンビニに行き、弁当と飲み物とたばこを買う。
「いっけねえ。出すの忘れた」
アパートに帰って、コートを脱いだとき気付いた。コンビニの入り口にポストがあるというのに、すっかり出すのを忘れてしまったのだ。
まったく四十を過ぎると物忘れが激しくなる。嫁さんでもいれば使いを頼めるのに。おっと、ないものねだりだな。
とにかく腹が減っている。弁当を掻き込むように食べながら、テレビのスイッチを入れた。
妙に古くさい画面だと思ったら、昔見た青春ドラマだった。
おれが高校の頃流行ったやつだ。ふん。くさい芝居だな。 おれは見覚えのあるシーンを見て鼻で笑った。
でも、こんな時代があったんだよな。テレビの中の紺の制服に懐かしい顔が浮かんだ。
ああ、そういえば、この女優に似ていたっけ。
おれはほこりをかぶった卒業アルバムを引っ張り出して、クラスの集合写真を見た。
彼女は優しげに微笑んでいる。清楚で上品な子だった。
クラスで、いや、学年で一番きれいだったよな。あの頃、彼女を好きだったやつはたくさんいた。おれも含めて。
いい子だったよな。誰にでも優しくて。頭よかったし。
ついに告白することもなく卒業したけど、おれが未だに結婚しないのは、彼女のような人が現れないからだ。
見合いだって何度したことか。
まあ、仲間の奴らは一生無理だって笑うけどな。
当時、彼女に惚れていた奴らもほとんどがそれなりの相手と結婚した。
そう。おれだけ。ずっとこの思いを持ち続けているのは。
はがきを出しそびれたまま一ヶ月が過ぎ、期限が切れてしまった。まあ、出さなければ、欠席だと思うだろう。
幹事の苦労も知らず、勝手にそう思い込んでいた。
「おい。元気か?」
電話が来た。昔つるんでいた仲間の一人だ。
「はがき。おまえ出さなかっただろう。困るんだよ。会場の予約の都合もあるし」
「あ、ああ。悪い」
「おれ、幹事なんだから、困らせんなよ」
「え? あ。そうか。わりいわりい」
「で? 出席か欠席か、今返事してくれよ」
「わかった。けっ……」
欠席と答えようとしたとき、
「そうだ。あの子も来るってよ」
そのことばに胸がどきんと高鳴った。
「彼女も今まで来たことがなかったんだけどさ。今度は出席の返事が来てるぜ」
「関係ねえよ」
とはいったものの、彼女に会って見たいという気持ちが起こってきた。
「じゃあ、出席ね」
「お、おい。ちょっ……」
やつは速攻で電話を切った。切りやがった。
彼女が来るからって、なんなんだよ。つきあっていたならともかく。
同じクラスでも一言二言しか話したことないし。おれの片思いだし……。
そうだよ。片思いなんだよ。
当日、やつは受付でおれの耳元ささやいた。
「おまえ、彼女のとなりに席つくっておいたからな」
まったくよけいなことを。
と思いながら、内心うれしさを隠しきれずに会場に入った。
「ぎゃはははは!」
あたりに響き渡る下品な笑い声がした。みると、おれの席のとなり……。
大声で笑いながら数人の友だちと談笑している、ヒョウ柄のジャケットを着たでっぷりと太った厚化粧の女。
「……え? 彼女??? まさか」
振り向くと、幹事のやつがにやにやしながらうなずいている。
やっぱり、くるんじゃなかった。
おれは心から後悔した。