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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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きみにあいたい

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「同窓会かあ。かったるいな。欠席、欠席」
 おれはそうひとりごちて、さっさと欠席に丸をつけてはがきをきりはなすと、羽織ったコートのポケットにねじ込んだ。
 近くのコンビニに行き、弁当と飲み物とたばこを買う。

「いっけねえ。出すの忘れた」
 アパートに帰って、コートを脱いだとき気付いた。コンビニの入り口にポストがあるというのに、すっかり出すのを忘れてしまったのだ。
 まったく四十を過ぎると物忘れが激しくなる。嫁さんでもいれば使いを頼めるのに。おっと、ないものねだりだな。
 とにかく腹が減っている。弁当を掻き込むように食べながら、テレビのスイッチを入れた。
 妙に古くさい画面だと思ったら、昔見た青春ドラマだった。
 おれが高校の頃流行ったやつだ。ふん。くさい芝居だな。 おれは見覚えのあるシーンを見て鼻で笑った。

 でも、こんな時代があったんだよな。テレビの中の紺の制服に懐かしい顔が浮かんだ。
 ああ、そういえば、この女優に似ていたっけ。
 おれはほこりをかぶった卒業アルバムを引っ張り出して、クラスの集合写真を見た。
 彼女は優しげに微笑んでいる。清楚で上品な子だった。
 クラスで、いや、学年で一番きれいだったよな。あの頃、彼女を好きだったやつはたくさんいた。おれも含めて。
 いい子だったよな。誰にでも優しくて。頭よかったし。

 ついに告白することもなく卒業したけど、おれが未だに結婚しないのは、彼女のような人が現れないからだ。
 見合いだって何度したことか。
 まあ、仲間の奴らは一生無理だって笑うけどな。
 当時、彼女に惚れていた奴らもほとんどがそれなりの相手と結婚した。
 そう。おれだけ。ずっとこの思いを持ち続けているのは。

 はがきを出しそびれたまま一ヶ月が過ぎ、期限が切れてしまった。まあ、出さなければ、欠席だと思うだろう。
 幹事の苦労も知らず、勝手にそう思い込んでいた。

「おい。元気か?」
 電話が来た。昔つるんでいた仲間の一人だ。
「はがき。おまえ出さなかっただろう。困るんだよ。会場の予約の都合もあるし」
「あ、ああ。悪い」
「おれ、幹事なんだから、困らせんなよ」
「え? あ。そうか。わりいわりい」
「で? 出席か欠席か、今返事してくれよ」
「わかった。けっ……」
 欠席と答えようとしたとき、
「そうだ。あの子も来るってよ」
 そのことばに胸がどきんと高鳴った。
「彼女も今まで来たことがなかったんだけどさ。今度は出席の返事が来てるぜ」
「関係ねえよ」
 とはいったものの、彼女に会って見たいという気持ちが起こってきた。
「じゃあ、出席ね」
「お、おい。ちょっ……」
 やつは速攻で電話を切った。切りやがった。
 
 彼女が来るからって、なんなんだよ。つきあっていたならともかく。
 同じクラスでも一言二言しか話したことないし。おれの片思いだし……。
 そうだよ。片思いなんだよ。
  
 当日、やつは受付でおれの耳元ささやいた。
「おまえ、彼女のとなりに席つくっておいたからな」
 まったくよけいなことを。
と思いながら、内心うれしさを隠しきれずに会場に入った。
「ぎゃはははは!」
 あたりに響き渡る下品な笑い声がした。みると、おれの席のとなり……。
 大声で笑いながら数人の友だちと談笑している、ヒョウ柄のジャケットを着たでっぷりと太った厚化粧の女。

「……え? 彼女??? まさか」
 振り向くと、幹事のやつがにやにやしながらうなずいている。

 やっぱり、くるんじゃなかった。
 おれは心から後悔した。
作品名:きみにあいたい 作家名:せき あゆみ