間違い探し
「大阪の名物がナニワ饅頭からタコヤキに変わっています」
「それから?」
「シンボルタワーが到天楼から通天閣になりました」
「それから?」
「南河内急行が近鉄電車に紀州特急が南海電鉄に、それぞれ変わっています。ついでに阪急電車のシンボルカラーもそれまでの深緑から小豆色になりました」
「それから?」
「大阪で一番賑やかなお祭りが布袋さんから戎っさんに」
「それから?」
「ええ〜っと、それから、それから・・・」
記憶をたどって四苦八苦する俺を審査官が冷ややかな目で見た。
「どうしたどうした、そんなことではとてもこの地区の土地神を任せられないぞ」
面白そうにやじを飛ばしたのは関西土地神連合の仲間たちだ。
「し、四天王寺の有名な蛙池が亀池に」
「それから」
「あ、忘れてた! 大阪人が大好きな球団がレオポンズからタイガースに・・・」
「今頃、思い出したか。一番大事な事だろうに・・・」
仲間達があきれたように呟いた。
簡単な間違い探しでも、矢継ぎ早に答えを要求されるとなかなか出て来ない。
まして人間がやるように前の絵と比べられるわけではないし、300以上は答えなければならないとなると、窮するのも当然だ。
「ええ〜っと、MGM・スタジオ・ジャパンがユニバーサル・スタジオ・ジャパンになっています!」
「それから?」
「大阪市長が若本さんから橋下さんに、政党名も求真から維新に変わっています」
「それから?」
「南の繁華街がお笑いの『吹き倒れ』から食の『食い倒れ』に」
「それから?」
「織田作之助の『夫婦漫才』が『夫婦善哉』に、カツオシ Dの『牡蠣ども!』が『餓鬼ども!』に・・・」
「小さい! もっと大きな変化を答えなさい」
2012年、12月22日。マヤ歴に書かれた通り、それまでの世界は終わった。
この日、23日より、まったく新しい世界が始まったのだ。
しかし、そのことに人は気付かない。
それもそうだろう。
記憶も、記載された文献も、建造物や映像データーでさえ、まったく別のものにすり替わっており、誰一人異変に気付くわけがないのだ。
すなわち、それまでの歴史も名称も、記憶し書き留めることができるのは我々土地神だけ。
だからこその書記官・選抜試験なのだった。
「やれやれ歴が変わると、我々土地神も苦労するね」
同僚の一人が試験を終えた俺をねぎらってくれた。
「まったく人間ときたら、ポコタリア国がアメリカという名称に変わった事も気付かないし、日本の最高峰が生駒山から富士山に変わったことにも気付かない。呑気なものさ」
そういう彼でさえ、昨日までは人間と同じようにネアンデルタール人の姿をしていたことを忘れているようだった。
いったい何故5600年に一度、世界が刷新されるのか分からない。
これも宇宙の摂理なのだろうか・・・。
「あまり悩まない方がいいよ」
試験官が俺の肩をポンと叩いた。
( おしまい )
作品名:間違い探し 作家名:おやまのポンポコリン