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えりまきとかげ
えりまきとかげ
novelistID. 42963
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車には……

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新年も無事迎えたばかりの頃の事。
私がお昼ご飯を作っていると、4歳になる娘が突然いなくなってしまった。
どこに行ったのかと探してみたが、どの部屋にも娘の姿は見当たらない。
私は娘になにかあったのではないかとパニックになり、あちこち探しまわった。
外に出ていったのかもしれないと思い私も外に出ると、車の中に一人で座っている娘が目に入った。
私は安堵の息をついて、笑顔を作ってから、何してるの? と娘に聞いてみた。
すると娘は、

「お話してたの」

と言う。
誰と? と聞くと、娘はう~んと言いながら首を傾げた。
こんな寒い所で遊んでると風邪をひいちゃうよと言って、まだお話ししてるの! と駄々をこねる娘を家に戻した。
その時は、子供のごっこ遊びの一部なのだろうなと片付けてしまった。


次の日も同じくらいの時間に娘がいなくなった。
そして、やはり車の中に一人で座っていた。
娘は本当に隣にいる誰かと話しているように見えた。
私は「いいかげんにしなさい!」と言って娘をしかりつけ、車にはロックをかけた。

しかしその次の日も娘は一人で車の中にいた。
確かにロックはしたし、鍵は娘の届かない所に置いた筈、なのに。

何か恐ろしいものが娘に憑いているのかもしれないと怖くなった私は、急いで近くのお寺に連れて行った。
ところがお寺の住職には、娘さんには何も憑いていないよと言われた。そして、

「それに悪いというよりも良い方の気を感じるので、心配はいりませんよ」

と続けた。
心配いりませんよと言われてもそうですかと素直に聞き入れる事は、私には難しかった。

私は改めて、娘に誰と話していたのかを聞いた。すると娘は、やっぱり、う~んと言いながら首を傾げた。

お寺に行った次の日も、娘はお昼頃になると車に向かった。
仕方がないので娘には暖かい格好をしてから行くのよと言って聞かせた。


私はいつも仕事に行くついでに、車で娘を保育所に送っている。
送迎のバスも出ているのだが仕事場と方向も同じなのでそうしている。

娘を車に乗せるのは少し抵抗があったが、心配いらないと言われている事もあって、普段通りに送っていくことにした。
家を出てから少しして、交差点の信号に捕まった。ふと後ろを見ると、娘が横を向いて誰かとこそこそ話でもしているかのように、口許に手を添えていた。
どうしたの? と声をかけると、

「危ないんだって」

と言った。
信号が青になったので車を走らせながら、
何が? と聞こうとした。

その時、横側から信号無視で突っ込んできたトラックがすごいスピードで私に近付いてくるのが見えた。私は悲鳴をあげながら、思わず目を瞑った。



────気が付くと私は何事もなかったかのように運転席にいて、ハンドルを握っていた。
前を見ると、信号はまだ赤のままだった。
今の出来事はなんだったのか……。
頭が混乱してしまって、信号が青になっていることに気がつかなかった。
後ろからクラクションを鳴らされて、はっとして前を見た。
すると、先程私に迫って来たトラックが猛スピードで目の前を通り過ぎていって……




突然娘が、あ~っ! と言って何かを指さした。
その先には、初詣で買った後、ミラーにぶら下げてあった交通安全のお守りがあった。
それを手に取ってみると、見事に真ん中から真っ二つに割れていた。

それからは、娘が勝手にいなくなって車に乗っているなんてことは、ぱったりと無くなった。
作品名:車には…… 作家名:えりまきとかげ