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鬼の見た夢

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名もない時代。名もない村の話。

山奥に恐ろしい姿の鬼が住んでいました。
友達と言えば、物言わぬ草木や鳥獣。
ときどき迷い込んだニンゲンに出喰わして驚くこともありましたが、
何年も何十年も鬼はたった一人で心穏やかに暮らしていました。

ある夜のこと。
お腹を空かせた鬼は、里に下りて行きました。
ニンゲンの家の庭の柿を盗み、食べ残しの粥を啜り、それでも飢えは収まりませんでした。
鬼は、ある家の近くで猫を見つけて捕まえて食べました。

次の日の朝、山で一番高い木の上で里を見下ろしていた鬼は、
血塗れの猫の鈴を抱いて泣いている若い娘を見ました。
アノ小サナ生キ物ガ動ケナクナッタノガ悲シイノカナ?
鬼はどうして娘が泣いているのか理解出来ませんでしたが、何となく胸がツキツキと痛みました。

鬼は、その日から生き物を殺して食べるのを止めました。
木の実や草の根ばかり食べていたのですっかり痩せてしまいましたが、
いつかニンゲンになれる様な気がして、鬼は幸せでした。

季節が幾つか巡ったある日のこと。
鬼はあの娘が綺麗な白い着物を着て、籠に乗って運ばれて行くのを見ました。
綺麗ダナと思いながら、鬼は娘が運ばれて行くのを眺めていました。

娘を乗せた籠が山道に差し掛かったとき、山賊の一群が現れました。
籠の周りのニンゲン達は、次々と凶刃に倒れました。

・・・・

気付いたときには、鬼は血の海の中にいました。
ただ一人生き残っていた娘は、鬼の姿を見て気を失いました。

血塗られた自分の手を見て、鬼は深い溜息をつきました。

その後、鬼の姿を見たニンゲンはいません。
作品名:鬼の見た夢 作家名:とら