クラブ
とある学校は、クラブ活動への入部が強制なんだとか。また、ある学校は、掛け持ちを禁止しているらしい。
そういったものがない、我が学校は、よく言えば自由、悪く言えばルーズなのかもしれない。
「運動部同士ですら、掛け持ち可能なんだもの。ちょっとおかしいわよね」
温かく体を包みこむ日差しと、心地よく吹き抜ける風。学校の最上階の屋上にて、ランチタイムに洒落込む私と友人二人。今日の私の昼食は、耳付き食パンのサンドウィッチ。弁当を作る時間がなかったのだ。理由は、単なる寝坊。
正面には、クラスメートの碧葉風夜(あおばふうや)、その隣には風夜の双子の妹、碧葉凪(あおばなぎ)の姿がある。
「可能は可能だけど、実際に掛け持ちしてる奴なんて、そうそういないだろ。そんなハードなこと、こなせる奴なんか、な」
風夜の言うとおり、文化部同士、または文化部と運動部の掛け持ちはたまに聞くものの、運動部同士については耳にしたことが無い。運動部に力を入れているわけではない学校でも、さすがに厳しいらしい。
陸上部に所属する幼馴染に、そのことを話したことがある。返答は「誰がそんなことするか」だと。彼も、陸上部一筋で、掛け持ちなんてしていなかった。
「禁止にしてもしなくても、結局は変わらないのね。帰宅部の私からじゃ、想像もできないくらい、ハードなんでしょうし」
「……南雲先輩から、聞いたりしないの」
「郁はそういうこと、教えてくれないわね。自分のテリトリーに入れたくないんじゃない?」
「ほら、男の子って、そういうところ、あるじゃない?」と、凪に振ってみるが、特に反応はなかった。代わりにその隣から、「男の子の前で言うことじゃないよな」と苦笑された。
「そういや、イリナも帰宅部だったよな」
「えぇ。……凪ちゃんも、帰宅部よね、確か」
水筒に口を付けながら、こくんと頷かれた。以前よりはコミュニケーションを取りやすくなった彼女だが、未だ口数は少ないままだ。
「風夜は? 何か入ってたっけ?」
「所属はしてないけど……バスケ部の助っ人には参加してるな、うん」
「身長低いのに?」
「うるさい」
風夜の身長は、160前後。凪ともあまり変わらない。男子としては、かなり低い背だ。本人はコンプレックスにしているわけではないところが、救いとも言える。……むしろ、妹との共通点に喜ぶだろう。彼は、相当なシスコンだ。妹が嫌がるほどに。
「身長が高きゃ、バスケうまいわけじゃねーだろ? 低くたって、うまい奴はうまい」
「……自分がうまいって言ってるみたいね」
「一応、助っ人で呼ばれてるからな。下手とは思ってない」
まぁ、それもそうだろう。自分の実力を卑下することは、時に、他人の評価も卑下することになり、失礼に値する。そこのところは、理解しているらしい。自信家というわけでもない彼が、そう言うのだから。
「所属してなくても、クラブ活動って結構楽しいぜ? お前らも、何かやったらどうだ?」
「めんどい」
「うーん、私も遠慮するわ」
「ノリ悪いなぁ」
こうして色々話してみて、クラブの魅力は充分に感じられた。だが、自分でやりたいとは思わない。高みの見物にふけるのが、一番楽だ。そう思ってしまっているあたり、魅力を理解しきれていないのかもしれないが。
クラブをするもよし、委員会に入るもよし、一般生徒になるのもよし。あと1年以上ある学校生活を楽しむ選択肢は、いくらでもあるのだ。どんな選択でも、充分に楽しめれば、それでいい。