フェル・アルム刻記 追補編
地方を巡回する疾風は中枢への連絡手段として、文書のほかに胸元の宝珠も用いる。隷達の魔力が秘められているこの宝珠に念ずることで、術の力を持たない疾風でも至急の連絡が可能となっている。疾風は宝珠に込めた念が直接ドゥ・ルイエに届くものと思っている。文書による連絡はあくまで形式的なものと思っており、怠ることもある。
だが実際は宝珠の情報は隷達が把握するところであり、何日も経てアヴィザノに届いた文書のみがドゥ・ルイエの元に届くというのが真実である。
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烈火
烈火は、フェル・アルム究極の軍隊である。疾風では処理しきれないほど中枢に造反する者が多数出現することを想定して、正史三九五年にデルネアと隷によって結成された。
烈火の剣技は疾風のそれと同じくらい高いものである。しかし、単独行動・迅速性をむねとする疾風とは異なり、烈火は集団連携による戦いに特化している。深紅の鎧に包まれた彼らと戦争を行って、無事で済むはずがない。
烈火の人数は二千と、かなり大規模な組織である。ゆえに、よほどのことがない限り烈火の発動は行われない。疾風に比べると正史上の登場回数も少ないようである。“神託”を受けたドゥ・ルイエが勅命を下すことで烈火の発動は行われている。
近年では、正史606年の“ニーヴルの反乱”に際して烈火が発動されニーヴル達と戦っている。ニーヴル達は殲滅されたものの、烈火の被害も甚大であった。烈火も、フェル・アルムに住む民である以上、術に対する知識など持ち合わせているはずもなく、術使いであるニーヴル達に翻弄されたのだ。以降、烈火の鎧には、隷の手によって魔法に対する抵抗力が付与されるようになった。今の烈火を退ける者などフェル・アルムに存在しないと思われる。
常に闇に潜む疾風とは異なり、烈火達は命令がない限り、フェル・アルムの民として普通に暮らしている。しかし、自らが烈火であることを明らかにすることは許されない。もし明確になった場合は、疾風によって即座に抹消される。もっとも、烈火が身分を明かすことなどあり得ない。彼らもドゥ・ルイエに絶対の忠誠を誓って疑わない身であるのだから。
作品名:フェル・アルム刻記 追補編 作家名:大気杜弥