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夢と少女と旅日記 第2話-3

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「今宵は遠路はるばるフローラル王国のパーティによくぞお越しくださいましたな。感謝の意を表しますぞ。某はこの国の大臣、ハバネロと申す者です。以後お見知りおきを……」
 私はすぅっと息を吸い込んだあと、白々しく大臣と名乗るそいつに対して言いました。
「あなたですか?」
「何が、……でございましょうか?」
「とぼけないで欲しいですね。どっからどう見ても違和感バリバリじゃないですか。……はあ、とりあえずはまあいいです。ただし、少しでも不審な動きを見せたら、ぶっ飛ばしますので。それでは――」
 そう言って私は大広間の扉に手をかけました。そのとき、あいつは床を杖で突き、カッという音をさせたかと思うと、迫力に満ちた表情になり、こう言いました。
「一つだけ、申し上げてもよろしいですかな。――調子に乗るなよ、人間め。我らの目的を邪魔する人間相手なら、少々手荒な真似をしてもいいことになってるんだ。怪我したくなければ、とっとと消えな」
「ほら、もう襤褸を出した。まあ、せっかくなんでパーティを楽しませていただきますよ。今度のメアリー・スーがどうなってるのかも気になりますし。決着はあとでつけましょう」
 私がそう言うと、そいつは元の好好爺のような表情になり、「ええ、まずはパーティをお楽しみください。そうすれば、あなたもこの夢を気に入るでしょうしな」と言いました。
 私は大広間に入り、ふぅっと肩を竦めました。すると、エメラルドさんがひそひそ声で話しかけてきました。
「さっきのゴブリンのような人が今回の夢魔でしょうか……?」
「そうでしょうね。見た目から言ってそうですが、さっきの門番は入念に招待状をチェックしていたのに、あっさりと私たちをスルーしたところも引っかかりましたし。ひょっとしたら招待状をくわえた鳩を飛ばしたのもあいつ自身かもしれません。……っと、それよりもメアリー・スーがどこにいるのか気になります。もうこの大広間にいるのでしょうか」
 大広間はとても広く、100人以上の人が集まっているようでした。床は真紅のカーペットが敷かれていて、白いテーブルクロスがかけられた丸い机が30個ほどありました。
 壁の近くにはいくつもの石の円柱があり、私が入ってきた扉から見て真正面には舞台のように一段高くなっている場所がありました。舞台袖には左右それぞれ、棚引く真紅のカーテンがかけられていて、今にもそこから誰かが出てきそうな雰囲気でした。そして、その舞台の床もやはり真紅のカーペットが敷かれているようでした。
 集まっている人たちのほとんどはタキシードかドレスを着ていて、ポンチョにデニムという姿の私はかなり浮いているようでしたが、それを気に留める人はいないようでした。
「とりあえず見渡した限りでは、モブ顔しかいませんね。タキシードのイケメンがいれば、テンション上がりますけど、あんまり心惹かれる顔ではないです。いえ、男性も女性も美形揃いではあると思いますけど、やっぱりみんな人形みたいで……」
「確かに、今ここにいる人たちは映画の背景として用意されただけの存在って感じですね。私たちが入ってきたときも、全くこちらに見向きもしませんでしたし、生や感情というものを感じません。前の夢の英雄エヴァンスさんとも、別なような気がします」
 むしろ異端なのは私たちや、エヴァンスさんのようにちゃんとした役割を与えられた夢の世界の住人なのかもしれませんね、――と言おうとしたとき、突如照明が暗くなりました。しかし、停電というわけではなかったようで、舞台だけはライトアップされました。
 いよいよ今宵の主役の登場か。私はそんな風に考えて、舞台の方に意識を集中させたのです。そこに現れたのは綺麗な純白のドレスを着た女性の方でした。そして、その顔は私がダイブする前に見たティアナさんの顔と同じでした。肩まで伸びている髪にはウェーブがかかっていて、気品を感じられました。
 彼女には他のパーティ客にはない人間としての気配もあり、もはや論ずるまでもなく彼女こそが今回のメアリー・スー、――囚われのお姫様であることを確信したのです。
「我がフローラル王国のパーティへようこそ。わたくしがこの国の王女ティアナです。無礼講でございますので、楽しい歓談でも、豪華な料理でも、優雅なダンスでも、皆様お好きなことをしてくだされば、それで結構です。それでは皆様、ごゆるりとお楽しみください!」と舞台の中央まで歩み出た彼女は、高らかに宣言しました。
 それと同時に、執事やメイドと思われる人たちが料理が乗せられた台車を押しながら入室してきました。台車の数は一つではありません。いくつもの台車が運ばれてきて、それぞれに乗せられた料理がテーブルの上に並べられていきました。
 それらの料理は夢の世界とは言え、やはりとても美味しそうに見えました。考えてみれば時間は夜の7時頃、――ちょうど夕食時でもありました。お腹が空いていた私は、ちょうどいいところにと食事を始めようとしました。
「でも、一つ気になるんですけど、夢の世界での料理って食べても大丈夫なんですかね? もし大丈夫だとしても、それで満腹感が得られるんでしょうか」
「ええっと、多分料理には仕掛けはないでしょうから大丈夫だと思いますし、ちゃんとお腹は膨れると思います。でも、所詮は夢の中でしか存在できないものですから、ここから目覚めた瞬間消えてなくなってしまうんじゃないかと」
「えー、つまりここで満腹状態になっても、目覚めたらお腹ぺこぺこになっちゃうと。まあ、ともかく夢魔を倒すための行動を開始しましょう。メアリー・スーの目的についても、お金持ちとしてみんなに食事を振舞って喜んでもらうことだとはっきりしましたから、これ以上調査の必要はないでしょうし。と言っても、まずはお腹を満たしてからですけどね! 一時的ではあっても、とにかくお腹を満たさないことには始まりません。というか、こんな美味しそうな料理を目の前にして、手をつけないなんてもったいないことは夢の中であってもできません。ひゃっはー、今夜もご馳走だー!」
「……本当に欲望に忠実ですね、ネルさん」
 エメラルドさんは若干呆れ顔で私のことを見てきましたが、気にせず食事にありつくことにしました。これから夢魔と戦うんだから、そうしなきゃ仕方ありません。他のパーティ客も既に食事を始めているようでした。