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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年-序-

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「いらっしゃい、ト・スクーナ」
先に到着していたらしいルワールは自ら運んできたのかティーテーブルと椅子を4脚用意して待ち構えていた。
白地に黒い縁取りのコートで全身を包み、着る者によっては窮屈そうに見えるのだろうがゆったりとした動作ゆえに逆に優雅さまで感じさせる。
素肌が出ているのは顔と手先だけだ。
場合によってはこの手先さえ手袋で隠し、顔もベールを被るという。
「久々だね」
寄っていって進められるままに椅子に腰掛ける。
ルワール以外に、スクーナにとってのラティーンと同じ人物が居る。
「座る前にアレ出してくださいね」
ルワールは自分の横に立つ人物に声をかけてから椅子に座る。
ラティーンも座ったところで4番目の人物である青年が
「テーブルの上に手は出さないようにな」
とテーブルの上が空であることを見届けてから軽くテーブルに触れる。

ぱぱぱっ

何も無かったはずの場所にテーブルクロスが現れたと思った瞬間、茶器が現れポットからは茶の香りが立つ。
皿にはケーキが乗っている。
「どうぞ」
ルワールの隣の椅子に座る。
「いやぁ、さすがにいつ見ても見事だね」
派手なことが好きなのはルワールとそのパートナー、ア・ヴァラキの共通項目だろう。
守護者としての能力をいうなら、ラティーンは影から守ってゆくタイプだがヴァラキは表に立って守るタイプになるはずだ。
正確には、ラティーンには申し訳ないとスクーナ自身思うがヴァラキの方が守護者としての能力は上であると思う。
ソレはヴァラキ自身が歴史に名を残す人物であることからも分かる。

しばし雑談は続き…

「早速本題ですけれど、スプライスまだ気が抜けているようでしょう?」
そうルワールが言った頃には茶会を始めてから数時間も経った頃だった。
太陽は傾きかけている。
スクーナも他二人も気にしていない。
時々ヴァラキのみ眠ったように目を瞑ったまま動かなくなるのだが、眠っているわけではないことも分かっている。
本来ならばスクーナとルワールが気にとめなければならない神殿のそれぞれがいなければならない場所の状況を確かめているのだ。
この二人がすごす『部屋』と対外的に言っている空間は、神殿内外からの心の声が届くこともある。
『神』に対しての要望や疑問などが主で、それにこたえることもこの二人の仕事の一つであったり。
もしくは大陸(世界)の異常なども伝わってくる。
数年、数十年と変わりない状況が昨日今日で急変するとは思われないが、それでも勤めかと思えば放っておくことも出来ない。
…はずなのだが、神だって人間臭い喧嘩をする世界。
その使者が人間臭く、時には仕事をサボったところで致し方ない。
この二人には多分にそういった面があった。
ヴァラキはその持ち場を離れる二人をカバーできるのだった。
とりあえず現在は平穏らしい。
「ブレースみたいにしっかりしてくれれば遠慮なく外にほっぽり出すんだけどねぇ…」
天に浮かぶ月の一つを見上げる。
「別にブレースだってしっかりしているわけではないですよ…止まったら本当に全てが停止してしまうタイプと言うだけです」
「スクーナが過保護なだけでしょ」
「そんなに過保護かなぁ…?」
ラティーンの言葉に首を傾げるが、決して放任主義ではないことだけは確かだと自覚はしていた。
「と言うわけで、お目付け役付きでスプライスを『外』にだしませんか?」
「え…?」
といいつつ「やはりそう来たか」とも思う。
「初めから他大陸なんていいませんよ。ノスフェのところにでも行っていただきまして、状況でも聞いてきたらいかがですか?と言う程度ですか」
「ラ・ノスフェ?」
その名前を聞いて思わず眉をしかめる。
ソレは…諸刃の剣のような気がするのだ。
そう思ってしまう辺りがすでに『過保護』であることに気づいてはいない。
「そろそろブレースに行ってもらおうかと思っておりましたので」
『外』にでる為のお目付け役などブレース以外考えられない。
ノスフェへ状況を聞きに行くのはブレースにも諸刃ではないだろうかとも思うが、ブレースの様子を見てもルワールの様子を見ても自分の心配は過ぎたことなのかもしれないと思い改める。
「行かせてみるか」
もちろんスプライスに選択権などは存在しない。



***



神殿内や近隣だけで漠然とした日々を過ごしていたところに、急にラ・ノスフェの元へ行けといわれたのはいつだっただろうか。
ラ・ノスフェは生と死の境界の世界に身を置いている。
そこである人物の生死を確認するのが最初の仕事だった。
その後ト・スクーナの使いとして各地を歩き回らされて早数十年。
その間同じ地を殆ど指定しなかったのはスクーナのやさしさなのだろうか。

そんな風に過ごしていたが、その話にはスプライスも驚いた。

「それはブレースの仕事じゃ無いんですか?」

幾ら違う地へ飛ばされるとはいえ、そこは自分にもスクーナにも縁が無い場所のように思えた。
「今ブレースは外に出ているんだって。だから代わりに『お願い』って言ってた」
テヘッと笑っている辺りが怪しすぎる。
「だからって天空の『獣従者』を選定してくるだなんて、何で僕が…と言うか僕には無理でしょう」
自分の『獣従者』だって考えたことが無い。
「いや、できるできる」
「そんな簡単に…」
言いつつ、自分の太ももをさする。
スクーナもそれに気づいて苦笑した。
「魚に鳥を選びに行けって言うのは?」
スプライス自身は大海の獣従者の血を濃くひいているために、変態(変身)できる。
半身魚、魚人ではなく人魚だ。
変態すれば水中で自由に動き回れるが、鳥についばまれる魚の気持ちまで分かってしまう…というのは真実なのかはわからない。
「まぁ、わざわざスプライスって指定あったから、理由あるんだと思うよ」

……やはり怪しさしか感じないのだ。