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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年-序-

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水辺の風をうけながら回廊を歩いていると、空に鳥の影が見えた。
鳥の影にしては大きいかもしれない。
翼人でもやってきたのだろうか。

主たる理由があるわけでもなく歩いていたト・スプライスはそんな光景に足を止めた。
眼前に広がるのは広大な湖面。
現在スプライスがいる建物は湖面に浮かぶ小島だった。
小島というのもおかしいかもしれない。
その小島は全てが一つの神殿で、建物が湖面に浮いていると称したほうが良いだろう。
陸は東側遠くに見えるだけ。
普段は船で陸と行き来をし、極偶に橋がかかる。
橋が架かるのは各種祭事の時、その期間だけ。
スプライス自身は別の移動手段があるから橋も船も気にしないが、一般人には遠い存在なのだと感じる。

この大陸を治めるニ大神の片割れ、シュッダーの主神殿。
シュッダーは水を司り自由を説く。
もう少し言うなら『自由の中の束縛』を説く。

この大陸独自の種族である『神官』であるスプライスは、当たり前だが生まれてからずっと『神官』をやっている。
しかしこの『自由の中の束縛』という基本中の基本の考えが、つかみきれていないのも事実だった。
あるいは。
もしかしたらつかみかけた時期もあるのかもしれない。
それも長い時間によって風化したのだろうか。
本来通常の人間よりも短命な『神官』は短命であるがゆえに教えに到達するのかもしれない。
似合わないと思いつつも、そんなことを考えてしまうのは当然理由があった。
「似合わないねぇ」
ボンヤリと湖面を見つめ、物思いにふけるスプライスの背後に立つ人影。
スプライスと同じくらいの身長、同じ髪の色。
同じような体格をしているが、わずかにスプライスのほうが筋肉の付きがよいだろうか。
そして雰囲気は似ているが、決定的に違う一点。
「ブレース、どうしてお前がこんなところに…」
水面の風がスプライスとタ・ブレースの髪を揺らす。
二人の額には文様が浮かんでいる。
その色と形は異なっていた。
その文様こそが『神官』を表すもの。
ブレースは二大神のもう片柱、アジャレイ神の神官だ。
『神官』という種族はこのニ柱の神の元にしか存在しない。
「使いで来たらさ、ちょっと呼んで来いって言われてわざわざ呼びに来たんだよ」
「探しちゃったよハハハ」なんて笑うが、ブレースがスプライスの居場所を『探す』必要などないことお互いがよく分かっている。
幼い頃に繰り返した『真剣かくれんぼ』の際、お互いがあまりにも巧妙に隠れてしまったため、他の人々まで巻き込んで探索活動が行われるほどの事態を幾度か引き起こしたことがある。真剣ゆえに見つけられるまでひたすら逃げ続ける。
どうやったのか数日に及ぶことさえあった。
幼い子供が何をどうしたらそんなことを可能とするのか。
頭を痛めた神殿の人々が、或る魔導師に依頼し二人には『探知』の魔法がかけられた。
この魔導師にしか受信できない信号波を取り付けられたようなもので、その後諸事情ありブレースがその魔導師からスプライスと自分にかけられた魔法の周波数を教えてもらいブレースはスプライスの居場所を探知できるようになっている。
……遠い昔の出来事なのだが、あまりにもその魔導師の力が強力だったためか未だに効果が切れずにいる。
考えるのも面倒なほど昔の話だ。
「お前なんてよこさずに、直接呼べばいいのに…」
ため息をつきつつ、自分を呼んだであろう人物の待つ場所へ行こうとターンする。
「バッカ。久々に僕の顔見て元気出せってことだろ」
ない胸をそらす姿を滑稽に見せたいらしいが、滑稽に感じる感情さえわいてこない。
「…本当に元気だな」
ポツリと漏らすとさすがにブレースを眉をしかめた。
歩み始めたスプライスにあわせて隣に付くように歩み始める。
「スプライスとは違うんだよ。動いてないとダメなんだ」
独り言なのか、スプライスに対して言ったのか。
世界の全てが足元からガラガラと音を立てて…いや、音も立てる間も無く消えてしまったスプライスには足を踏み出す場所も感じられない。
「スプライスも…」
とブレースがスプライスを見ながら自分の胸元を示す。
ブレースの胸元には何もないが、スプライスの胸元には首から下がった純白の羽根がある。
大き目の羽だが、その羽根の付いていた翼を思えばだいぶ小さいほうだろう。
「あんまりグダグダしていると、小言の嵐だよ?」
言ってから、イヤイヤと首を振る。
「口もきいてもらえなかったりして」
そう言える、ブレースがうらやましかった。



そこは建物の中のはずなのだが、異次元だった。
としか言いようのない場所というのが正確か。

扉をくぐるとまっすぐに一本の通路があり、突き当たりはちょっとした広間になっている。
通路の見た目の長さはこの建物を考えると異常に長く、先の広間に人がいたとしても、いることが分かる程度。
その広間の最奥は高くなっていてそこに椅子があった。
部屋…というよりその空間は扉の有る位置を含めて四方を滝が流れ落ちていてその音が通路を歩む人の存在そのものを打ち消しそうだ。
通路の両脇から下方には水面があることは分かるのだが、滝の水煙でかすんでいる。
天井を仰げば…水中より水面を見上げた時のような光景。

この通路も空間の主の意思により伸縮自在であることをスプライスもブレースも知っていた。
だから…

「やっと来たか」
数歩で遠くにあったはずのホール部分に到達しても驚きもしなかった。
部屋の主がそのパートナーと共に立っている。
名をト・スクーナと言う。
スプライスのフルネームも『ト』から始まるが、コレは神官であることを表す頭音になる。
ついでだがブレースの『タ』も同意だ。
「お呼びとのことでしたので…」
頭を下げかけると
「そんな堅苦しいのはいいから」
ヘラッと笑う。
怪しい笑いだ。
何か隠されていそうで頭を下げるのを止めてその顔を凝視する。
動じずに保つ笑顔。
そんな二人、スクーナの顔立ちはスプライスによく似ていた。
否、スプライスがスクーナに似ているのだ。
スクーナのほうが幾分目も大きく多少小柄で全体的に細身で…グラマラスな体型をしていが。
しかし性別は女性ではない。
男性でもない。
シュッダーの『神官』と呼ばれる種族の特徴の一つで、その肉体は両性具有なのだった。
特定の年齢時に『儀式』を受けることでどちらか片方の性別を選ぶことが出来るのだが、スクーナは現在両性具有の状態だった。
実はスプライスも両性具有体なのだが、外観的に男性的な部分が勝っており男性と見られることが多い。
「それでね、スプライスもあまりウダウダしていると唯でさえ腐っちゃってるのがますます腐っちゃって、こっちとしてもやってられないから仕事任せるよ」
スクーナがヘラヘラと告げる。
「仕事って…」
いったい何があるのか。
この大陸(世界)内のことなら粗方なんでも出来るであろうスクーナに人を使う必要があると思えないのだ。
「色々あるよ、いろいろ」
「…だからなんですか」
具体例を挙げて貰わないとなんともいえない。
拒否権があるわけでも無いが事前に知っておいたって悪くないはずだ。
というよりも事実なのかを判別したいといったところか。
「スクーナ様の仕事が嫌だったら僕の仕事を分けてもいいよ」