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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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【ゴミ溜め 時計塔 壁を越える鳥】




丘を降りて広い農道へと出ると、何台か馬車と行き違った。
トレミーの街に住む人の交通手段は馬車が主だ。
バイクはある程度普及しているが、農機を引いたり、バスなんかは二頭立ての馬車が殆どだった。

「あれ?なんで灰羽が自転車持ってるの?」

街のはずれに入ったとき、黙々と自転車を押すロックオンにバイクに乗った少年が話しかけた。

「……これ、お前さんのか?」
「えー?多分そうだと思うけど……」

聞くと少年は念願のバイクを手に入れて、古びた自転車を廃棄したという。
捨てたのは数ヶ月前の話だと少年は言うが、自転車の特徴からして自分のものかもしれないと言った。

「タイヤもパンクしちゃってたし、いい機会だったから捨てたんだけど…………灰羽って、めんどうだよな」

見下すように少年は笑った。
この少年にとって自分たちは、ゴミを漁って日銭を稼ぐ物乞いにでも見えるのだろう。
青ざめたようにアレルヤは言葉を失う。
一気に冷水を浴びせられたかのように先程までの熱は何処かへ行ってしまった。
たった一人の少年と邂逅しただけと言うのに、この一瞬でこの世界の悪意に触れてしまったかのように背筋が凍った。
言葉の節々が棘のように感じる。

「良かった、持ち主探してたんだぜー。持ち主探して貰っていいか聞くの面倒だから、次からこーゆーのはうちに持ってきてくれよな」
「はは、母ちゃんに言っておくよ」

そんな少年など気にした様子も無くロックオンはあっけらかんとした態度で言葉を連ねた。
少年は少年でなんの他意も無かったのか素直にロックオンの言葉を受け流し何処かへバイクを走らせて行く。
アレルヤにはまるで、彼らには何も見えていないように思えた。
しかしそれは自分の勝手な解釈であったのかもしれないと同時に思う。

「……………………嫌に感じた?」
「え、」

なるべくそういう事は考えたくない――とアレルヤは思った。
今朝もそうだ。生まれる前の自分の事を考えて、嫌気がさした。
そんなアレルヤの想いを機敏に感じ取ったのか、ロックオンは包み隠さず尋ねる。

「いえ……色んなことが、考えが先走っちゃって……」

そうしてくれた方が有難かった。
問答を繰り返せば自分が何を考えているのか、何を思ったのか結論が出やすい。

「生まれたばかりの灰羽っていうのは、そういうちょっとした気に弱いんだよ」

俯くアレルヤの頭にロックオンの手が乗せられた。
子ども扱いされている。なんたって彼はプロの保育士と言っても過言は無いんだから。
アレルヤは思考は大人でもそれが周りにはついていかないようで、戸惑うばかりであった。
この世界の規律も成り立ちもなにもかも、アレルヤは知らない。
自分の中で形作られている常識は覆されていく。
いったい何処で植え付けられた常識かも思い出せないまま。

「気?」
「【めんどう】って言われて、【いやだなあ】って思ったろ?」
「それは、僕が勝手に思っただけで……」
「灰羽のルールっていうのはな、元々はそういう人間の負の気配から守るためのものだったんだよ。だけど今はそのルールが灰羽を負の気に当ててるんだ」
「……ロックオンはあんな言われ方して、嫌じゃないの?」

あんな、とはどういう言い方だったのだろう。
改めて思い返すと、少年は普通に笑っていたような気もする。
だけどその目が、口元が、視線が、声が。
冷たい氷の柱のようにアレルヤへと落ちてきた。

「嫌だけど、もう慣れた。」

ロックオンは寂しそうに微笑う。
まるで、過去に誰かにそう言われた事のあるような声だった。
それすらアレルヤにとって今は敏感に受け取ってしまう負の気配であると、考えを散らした。


<改ページ】>


街の大通りを抜けて、たどり着いたのは街のほぼ中央にある時計塔だった。
ロックオンが塔のふもとにある中に入る小さな木製の扉板を押すと、時計塔の中はガレキやがらくた、スクラップされた機械などが所狭しと並べられている。

「おーいおやっさん、いるか?」

ロックオンはあたりを見回して、手を口に沿え大きな声を出した。
するとどこからかガタガタという音がな響く。
最終的にどこからか物が落ちたという大きな音がしたかと思えば、奥のほうから小柄な男性が姿を現した。

「おおロックオンか、久し振りだな!」

眼鏡を掛けた壮年の男性は、快活そうにロックオンの名を呼んだ。
どうやら二人は親しい間柄なのか、男性は手をこちらに差し伸べる。

「うおっ手袋油まみれじゃねえか!」
「おおすまんすまん。……なんだ、そいつは?」
「新しい灰羽のアレルヤってんだ。今日はちょっと頼みごとが…」
「まさか俺ん所に弟子入りさせようってんじゃないだろうなあ?!」

嬉々とした男性はアレルヤをまじまじと見る。
その視線にアレルヤは驚いて無意識にうちに一歩後ずさりしてしまった。

「うん、うん、合格だ!お前の後釜として申し分ねえ!」
「いやそうじゃねーって」
「あの……」

そんなアレルヤの肩をぽんぽんと叩き、男性は一人納得している。
アレルヤはアレルヤで話の流れが理解できず、ただ立ち尽くすしかなかった。

「え?違うのか?」
「違うちがう」

手を横に振り、ロックオンはテンションの上がっていた男性を即否定した。

「なんだもう期待させやがって」
「おやっさんが一人で舞い上がってただけだって」
「お前が顔も見せに来ないからだろうよ」
「それは…………今日は、街に用事があったから来たんだよっ!」
「で?用事って言うのはそれか」

ロックオンの手にしていた自転車を見て、それだけで理解したように男性は笑った。

「用事なんて気にせずに、顔見せてくれるだけでこっちは安心するんだからな」
「……おう」
「あーアレルヤ?だっけか。さっきは悪かったなあ、俺はイアン・ヴァスティ。ここの時計塔の保守点検・維持管理をやっとるもんだ」

人懐っこい笑みだ。少しロックオンに似ている、とアレルヤは思った。
自己紹介にと油にまみれた軍手を外して右手を差し出された
爪の中まで真っ黒に染まっている職人の手をアレルヤは握る。
思い切りよく握った手を振られ、アレルヤの緊張は次第に解けて行く。

「えっと、アレルヤといいます。ロックオンの……」
「俺の、初めての繭なんだ」
「ソラ豆以来の新生子か。デカいな」

なんと言おうか困って、アレルヤは視線をロックオンに向ける。
後輩灰羽?一瞬の戸惑いの最中、答えはロックオンが先に出してしまった。
アレルヤの繭は、ロックオンが見付けた。
そしてアレルヤは、ロックオンが初めて見付けた繭だった。

「……ソラ豆って、誰?」
「ソランだよ。一番ちっこいやつ」

まだゴッデスホームに住む灰羽全員の顔と名前を覚えられていないアレルヤは、誰か他の灰羽の事を言っているのは解っても誰かは解らなかった。
一番小さいと言われ、目覚めてすぐの時にロックオンの足元にいた黒い髪の幼子の事を思い出す。

「あいつは本当にちっさいからなあ……夢の内容聞くのに苦労したぜ」
「そういえば、名前って夢から決めるんですか?」
「あれ?知らなかったのか?」

クリスはクリスマスツリーを飾る夢を見たから、クリス。