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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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【謎掛け】


『ぼくだから、って、言って欲しいんだ』
その言葉のあと、ロックオンは、何にも言わなかった。
代わりに、いつもとは違う笑顔を浮かべてくれた。
それだけで全身を責めいだ痛みが取り除かれて行くような気がするほどで。
それだけで、アレルヤにとって十分だった。
否定されなかったという事がとても嬉しかった。
その時の歓喜だけが、いま自らの内側にあるただ一つの感情。
胸が締め付けられる……アレルヤは心臓を掴む。
こんなにも好きなのに、この感情が何なのか自分自身で理解できていなかった。
綺麗な恋には昇華出来そうにないことだけは、ようく解った。


*****


冬はよりいっそう厳しさを増す。
自然の脅威を示すよりも、それは街の中に彩りと仄かな温もりを現した。
瑞々しい緑の葉に赤いリボン、金の鈴、銀の星、冬至祭が近付いて来るのが目に見えて解った。
町の中を歩けばそれがよく解る。
子供達はマフラーに手袋をして、それでもなお広場で輪を作っていた。
大きな袋を肩から下げて、彼は街で一二を争う古い建物の、図書館へと現れた。
以前のようにアルバイトをしに来た訳ではない。もちろん本を借りに来た訳でもなく――お固い帽子を被る彼の姿は、一見してホームで寝起きをする彼の姿とは一致しなかった。
その帽子は制服だ。身に纏うものも、彼の持ち物ではない。
郵便局でバイトをしていた。
ホームに寄り付かなくなった彼は、一人で自分探しでもしているかのように映った。
「お届けものです、って、あれ?」
図書館の薄暗さは前と変わりはない。
書架整理の時に殆どのメンバーと顔見知りになったから何かしらの言葉を掛けられる事は予測していたが、そこのメンバーではない人物がカウンターの中に一人いたのに気が付く。
「郵便局でバイトしてるの?」
驚いたのは向こうも同じのようで、手を止めて驚いた顔を向けられた。
「え、ああ、うん……」
言葉を濁してしまう。
そこにいた人物は二人だ。
驚いた方はフェルト。ここのメンバーではないのは、クリス。
淡い茶髪を揺らして、クリスは首を傾げた。
ワインレッドのストールで体をあたためながらフェルトと共に、図書館のカウンターで二人はライトを照らして何かの作業を行っていた。
「何してるの?」
「プレゼント作りだよ」
毛糸を編んで、冬至祭の子供らへの贈り物を作っているようだった。
「今年は忙しかったから、ギリギリになっちゃったの」
ホームでやってたら見付かっちゃうでしょ、と付け足す。
ないしょよ、と言われ、思わず口を塞いでしまった。
「む、難しそうだね」
カウンターの中に入って、クリスが見ていた本を覗き見る。
クリスはマフラーを、フェルトはどうやら小さな手袋をつくっていた。
いくつか揃えであるそれは、いつかアレルヤが見たもみじの、小さな手を守るものだと気付く。
「ねぇアレルヤ」
声を掛けられた。
「なに?」
「手の……大きさ、どれくらい?」
そっとフェルトが手を伸ばす、その手のひらにアレルヤは自らの手のひらを添える。
「小さいね」
「アレルヤが大きいのよ、男の人だもの」
「そうかな」
小さなフェルトの手は、指が細くてしなやかだ。
想えば、女の子との触れ合いなんて初めてだ――とアレルヤが思考をめぐらせた瞬間、クリスの視線が向けられる。
「アレルヤ、フェルトはだめよ~」
「えっ?」
ばっと顔を赤くして、手を引っ込めたのはフェルトであった。
(フェルトもね、ロックオンのことが好きなのよ)
ぽそ、とクリスが耳打ちをした。
「ああ……じゃあ、ぼくのより大きいのを作らなくちゃ」
フェルトの手をアレルヤは取って優しく包む。
不思議なほど、穏やかな気持ちだ。
何の痛みも、苦しみも、無かった。
無痛症かのように、或いは人形にでも自分はなってしまってのかと思う程、何も感じない。
クリスの言葉を聞いても、恥じらう乙女のフェルトの様子を見ても。



*****


本来の用事であった届け物をフェルトに渡して、アレルヤはまた一日街を走り回った。
色々な所をめぐる。
時計塔を中心として、街の中心から一番遠い家まで歩くとかなりの時間を取らせるが、灰翅のアレルヤがバイクの免許を取るには手続きやらなんやらが必要になる。
特にこの仕事を続けるつもりでも無かったアレルヤであったのだが、他の仕事をするつもりであるのなら、この仕事をやっているという大義名分があるうちに免許と取っておいた方がいいと先輩たちに言われた。
連盟に長続きしないやつ、と決められる前にな、と。
アレルヤは苦笑いを返して、ホームへと戻る。
皆より少し遅い夕ご飯になるのも多くなった。
ロックオンも何も言わないのをいい事に、アレルヤはここ数日ほど自由気ままに過ごしていたような気がした。
その日は既にロックオンは自室へと戻っていて、キッチンにいるのはクリスとフェルトだけだった。
未だ仮眠用のベッドで生活をするアレルヤであったが、広い部屋である為暖炉の火は絶やすことなくくべられ部屋が暖められている。
それに少し気後れするものの、二人はせっせとマフラーと手袋と、耳当てを編み続けた。
「――フェルトのゆめは、毛糸だっけ……」
ホットミルクを作りながら、二人の姿を眺めていた。
食べ終えた食器も洗って、子供たちをお風呂に入れて、寝かせて、それから二人も風呂上りに毛糸をまったりと編む。
何をするでもなく、アレルヤは三人分のミルクを温めた。
自分には何もできない――ただ見守るだけであったので、はちみつを少し入れて、息抜きにと二人にそれを渡す。
「そうだよ」
濃いピンク色のマグカップを受け取りながら、フェルトは笑った。
フェルトはもう、モスグリーンの手袋に着手している。
大きさからみて、きっとロックオンのものだろう。
「大切な……何かだったと思う。ずっと追い掛けてたの。」
転がる毛糸の玉があった。
毛糸だと表現するにはその姿形は曖昧だが、柔らかな羊毛と、温もり。
それにはしっぽがあった。毛糸玉からはみ出たあまりの毛糸。
「でも掴む前に、手にする前に目の前から消えちゃったっていうのだけ、覚えてる」
手を伸ばし続けた毛糸の玉はいつか終わりを迎えてその形を喪ってしまった。
失くしたものは帰って来なかった。
手のひらに残る喪失の感覚だけが今も生々しく残っている。
コトリとマグを置いて、彼女は言った。
「これが私の、マナ」
「マナ?」
「真実の名前、って意味。真名。」
「それは、ぼくにもある?」
「あるよ。みんなにある。私たちはそれを探す為に生きてるって言うんだ。」
それは夢の真意に繋がるから、と付け足した。
「意味は分かっても、失くしたものがなんだったのかまでは、まだ分からないままなんだけどね。多分、それが解った時が、私の旅立ちの日だと思う。」
「……だから、いつか本当に自分が巣立つ時までに、大切な人にわたしがここにいた証、残しておきたいんだ」


20141002